幸せのつかみ方
振り返ると、背の高い男性だった。

「タイヤが溝にはまってしまってねえ・・・」
と、おばあさんが答えた。
「ああ。持ち上げたらいいですか?」
男性は私に尋ねてきたので
「あ、はい。ね?」
おばあさんを見ると、うんうんと頷いて
「お願いします」
とお辞儀をした。

男性はカートを両手でしっかりと掴むとひょいっと軽々と持ち上げた。
思わず、おばあさんと二人で「おおおお」と拍手をしてしまう。

おばあさんは
「わああ、すごい。ありがとうね。助かったわあ」
とにこにこと笑って男性にお礼を言った。
そして、私を見て、
「お嬢さんもありがとうね」
と言ってカートから買ったばかりのチョコレートの袋を開け、小分けに包装されたチョコを3つずつくれた。
お嬢さんという年齢ではないのだが、訂正するのもおかしいのでスルーすることにして、にこやかに手を振った。


二人で並んでおばあさんを見送った後、視線に気が付き、隣に立っている男性を見上げた。

目が合った彼が、
「あの方はお知り合いなのでは?」
と尋ねるので
「いえ。存じ上げません。困ってらしたようだったので声を掛けたんです。でも、予想以上に重たいし、びくともしなくて・・・助けていただいてありがとうございました」
と、お礼を言った。

「いえいえ。大したことはしていませんから」
「・・・・」
「・・・・」
「では」
「あ、はい」

しばし沈黙が流れた後、会釈をしてその場を後にした。




いいことをすると心が温かくなる。
今回は私は何の出番もなかったけれど、あの男性の優しさに心が温かくなった。
いい気分だねえ。

おばあさんにいただいたをチョコを一つ、口に放り込んでにこにこしながら家路についた。



その優しい彼に再び会ったのは、翌日のことだった。
予想外の再会。しかも記憶が薄れることのないくらい即日の再会に目を見合わせ、笑ってしまった。
< 3 / 124 >

この作品をシェア

pagetop