幸せのつかみ方
翌日。




「「あ」」


こういう予想外の再会などで人が驚いたとき。
どうして、こんなにも低い声の「あ」が出るのだろう?


「お知合いですか?」
私が医療事務として働いている朝蔵総合病院の事務長が、驚いて目を丸くしている私たちの顔を交互に見ながら話しかける。
「知り合いと言えば知り合いですが、知り合いという程知っているわけでもなく・・・顔見知り?と言うのが無難でしょうか?」
そう言って微笑まれたので、私はにっこりと頷き返した。


昨日、カートを持ち上げてくれた優しい男性は事務長に連れられて病院内の案内をうけていた。

「今日からうちのコンサルタント業務を受け持っていただくことになった、朝蔵樹さんです。
主に経営企画課や事務課とのやり取りが主になるので、医務課の皆さんと関わることは少ないかもしれませんね」
と事務長が説明した。

「朝蔵樹です。」
樹さんは周りをゆっくりと見渡しながらほほ笑んで、
「どうぞよろしく」
とあっさりとした挨拶をした。
人当たりのいい表情に好印象を受けた。

昨日おばあさんを助けてくれたこの人は、性格もイケメンさんなんだろうなと想像した。
樹さんは整った顔立ちをしていた。すらっと背が高く、上質のスーツを着こなしている。
昨日はサラサラの前髪を斜めに別けていたが、今日はオールバックにしていた。
綺麗な額にきりっとした眉は、清潔感があり、医務課の独身女性も既婚女性もその文句のつけようがない容姿にポーっとしている。

朝蔵さんかあ・・・その名前から、病院長の息子か、親戚かなあと思っていると内線電話が鳴った。


トゥルルルルル。
「はい、医務課です」

内線電話の音に、みんなが一斉に気を引き締めるのが分かった。

『受付案内です。54申請のご相談、お願いします』
「はい。わかりました」
『それと受付3番です』
「はい。伝えます」

電話を切って、
「受付3番お願いします。54申請説明で相談室行ってきます」
当番の佐倉さんに受付業務をお願いし、申請説明のファイルを棚から出した。


「受付3番とは?」
「受付の順番待ちの患者さんが多いので3番の受付を開けてくださいという意味です」
「54申請とは?」
「公費番号が54から始まる公費のことです。今回は公費申請の説明を頼まれたので、千夏さんが行くようです。それから、受付案内所と医療相談室へはあとでご案内します」


朝蔵室長が事務長に質問している声を聞きながら、会釈をして、受付案内所で待つ患者さんのところへ急いだ。



1階の受付フロアは混雑していて、今日も忙しくなりそうだと思った。
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