幸せのつかみ方

約束のイタリアン

月曜日。

この日、私は朝から外来受付当番だった。
私が新規患者の患者登録をしている時、横からメモが渡された。


  『手が空いたら、電話して欲しい。
  経営企画室 朝蔵樹 (080-****-****)』
 
え?何かあったのだろうか?

経営企画室から連絡が来ることは一事務員の私のもとに、しかも樹さんから連絡が来たのは初めてだった。
番号は病院から支給される携帯電話の番号のようだったから、仕事だろう。

気になったが、手が空いたらでいいとあるのだ。
急ぎの要件ではないのだろう。
まずは目の前の新規患者さんの入力を間違うことなく、正確に入力していくことに気を配るのだった。



1時間後。
受付が少し落ち着いてきたので、断りを入れて医事課に戻った。
そして、私は書かれている樹さんの院携帯に電話した。

『はい。経営企画、朝蔵です』
4コール目でいつもより低い声の樹さんの声が聞こえた。
いつもより厳しく感じるこの声色に緊張が走る。

「あ、お疲れ様です。医事課の茅間です。先程ご連絡をいただいたようでしたが・・・?」
おずおずと尋ねると、

『ああ、千夏さん?お疲れ様です』
それまでとパット変わって、樹さんの声はいつものように柔らかいものになった。

『すみません。いきなり伝言を頼んだのでおどろかれましたよね?』

「いえ、問題ないです。折り返しの電話が遅くなり、すみません。何かありましたでしょうか?」
『・・・。今日の昼休みなんですが、千夏さんは何時から取られる予定ですか?』
「え?昼休ですか?」
『はい。昼休です』

ああ。
休憩を利用して何か話があるんだろうなとピンとくる。

「今日は13時から1時間の予定です」
『わかりました。今日も屋上に行かれますか?』
「ええ。その予定です」
『ご一緒してもよろしいですか?』
「はい。大丈夫です」
『よかった。それでは後程』
「あの、何か持っていくものとかありますか?」
『・・・今日はお弁当ですか?』
「はい」
『では飲み物は私が買っていきましょう。必要なものはありませんよ』



通話を切った後、なんだろうと小首を傾げる。
昼休憩に話したい用件が思い浮かばない。



お茶を飲んでお手洗いに行ってから受付に戻った。



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