幸せのつかみ方
食べ終わったところで樹さんが
「ところで。今日、仕事終わってから何かご予定はありますか?」
と尋ねた。

「え?今日、ですか?」
「はい」
私は少し考える。

今日はまだ一週間が始まったばかりの月曜日。
そんな日に予定を聞いてくると言うのは何か特別な理由があるのかもしれない。
そう思った私は
「特に予定はありません」
「そうですか」
あからさまにほっとした表情を見せた樹さんは
「今日、食事に行きませんか?」
「え?食事?」
「はい」

突然のお誘いに、樹さんの意図が読めない。
樹さんの表情もいつも通りで、悪い知らせにも見えない。

「・・・何かあったのですか?」

意図が思い浮かばず、樹さんの尋ねた。

「何か、ですか?」
「はい。何か相談があるとか、お願いがあるとか。手伝って欲しいことがあるとか」

樹さんは一瞬考えるように目を少し動かしたのち、私の問いの意味が分かったようだった。
「ああ。何かあったわけではないのですか・・・」
その上で、言いよどんだ樹さんは目を泳がして何かを考えた。

そして私の方をしっかりと向いて
「千夏さんとご飯を食べに行きたいから」
とはっきり言った。

「え?」

まっすぐに見つめてくるその真剣な表情にドキッとする。

「やっぱり月曜日ですもんね。難しいですよね」

樹さんは眉を下げ、微笑んだ。
その微笑みが少し寂しそうに見えた。
「いえ!大丈夫です」
初めて樹さんの寂し気な顔を見た私は、思わず言葉を発していた。

思わずOKしてしまったのだが、今更断れない。

「あまり遅くならなくて、お酒を飲まなくてよければ行けますよ」
私がほんの少し微笑むと、樹さんはものすごく嬉しそうに微笑んだ。

「本当に?嬉しい」
これが満面の笑みを浮かべたと言う表現がぴったりな顔なんだろうなと思った。


樹さんは年下だけれど、年齢的に大人で、可愛いというよりかっこいいとか、クールな印象を持っていたから、今のような弾けんばかりの笑顔に驚いてしまう。


そんな風に笑うんだと、じーっと見つめていると、目があう。

「こほん」
と一つ咳払いをして樹さんは表情をもとに戻した。

でも、その耳は少し赤くなっている。
あ。照れた。

「ふふふっ」
と笑うと、樹さんも恥ずかしそうに微笑んだ。


大人の男性でもこんなに感情豊かな表情をするものなのだ。勉強になる。
そんなことを思った。
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