幸せのつかみ方
外に出ると、樹さんは困ったように笑った。
「送ってきたのに送ったらだめですよ。大丈夫だからもう入ってください」
「じゃ、そこまで」
樹さんはくすっと笑った。


私は樹さんの隣に並んで歩いた。
樹さんはとてもゆっくりと歩く。

「直幸君に会うと思わなかった」
「私も驚きました。樹さんがお強いことにも驚きましたし、守ってもらえたのも驚きました」
「守るよ」
「ありがとうございました。かっこよかったですよ」
と笑うと、樹さんも微笑んでくれた。
そして、その笑みを消した。

「俺は千夏さんを守るよ」
立ち止まる樹さんを振り返った。

「俺は、千夏さんの傍にいたい。そして、ずっと君を守りたい。ずっと」
樹さんは真剣な目をしていた。

「そんな言い方しちゃ駄目ですよ」
「なぜ?」
「誤解しちゃいます」
「多分、誤解じゃないよ」

心臓がバクバク鳴っている。
私はできる限り平静に見えるように努めた。

「言葉遊びをするのは、年下のかわいい子にした方がいいわ」
「遊びじゃない。千夏さんが」


「好きだ」



!?

あまりに驚いてしまって息をするのも、声を出すのも忘れてしまっていた。
私はなんて言ったらいいのかわからなくて。
でも何か返事をしなきゃいけない。


私は思っていることを素直にゆっくりと話し始めた。
「私は・・・職場の私は本当の私じゃない。樹さんは本当の私を知らない」
「?」
「本当は私の心は真っ黒だから。ドロドロだから。やめた方がいい」
「全部ひっくるめて、どんな千夏さんも受け止めるつもりだよ」


「ごめんなさい」




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