幸せのつかみ方
二人の間に気まずい静寂が流れた。
心臓の音がどくどくと聞こえる。



「・・・分かった」

樹さんが呟いた。

私はほっとした。同時に心臓がきゅっと締め付けるような苦しさを感じて、俯いた。



「千夏さんの真っ暗なところを見せてもらえる?」

「は?」
顔を上げて樹さんを見上げた。
樹さんは優しい目をしていて。

「俺は、いつも笑顔で、みんなに優しくて、平等で、親切で、頑張りやな、そんな千夏さんしか知らないから。
俺が好きじゃなくなるように、真っ黒な千夏さんも見せてよ」

「・・・・・・」

「また、一緒に出掛けよう」

「ええええええええ?」

「『えええ』じゃないよ。ここでいいよ。遅くなると直幸君が心配する」

「あの。でも」


両肩に手を置いて無理やり後ろを向かせられる。
両肩に乗せられた手が、ポンポンと肩を叩いた。

「ほら。行って」

2、3歩歩いて振り返る。

樹さんこちらを向いたまま、まっすぐに立っている。

「おやすみ」
と口パクして手を振られる。


会釈をして部屋に戻った。




私の心臓が今日一番で音を立て続けていた。


『リハビリ』をしようと思い始めたばかりなのに!
こんなのいきなり過ぎて!
もう!

無ーーーーーーー理ーーーーーーーー!





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