幸せのつかみ方
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♪~
スマホから着信音が鳴った。
画面を見ると、裕太の名前が映っている。
こんな夜遅くにどうしたんだろう?
「はい」
『千夏?』
「うん。どうしたの?」
『今、どこ?』
「家だけど?」
『はあ~。よかった』
「何が?」
『直幸が、母さんと連絡が付かないって慌ててたから』
「ああ。ごめん」
直幸は裕太にも連絡してたんだ。
ちらりと浴室に目をやる。
『・・・千夏、ほんとに家なのか?』
「うん。家だよ。どうして?」
『・・・シャワーの音がするから』
「!?直幸よ。もう、何勘ぐってるのよ」
『本当に?』
コンコン。
浴室のドアをノックした。
「直幸ー」
シャワーの音が止まる。
「何?」
「お父さんから電話。何かしゃべって」
スマホをスピーカーにする。
「ごめん、連絡忘れてた!母さん帰ってきたよ」
「聞こえた?」
『聞こえた』
スピーカーをオフにして、
「心配かけてごめん。職場の人とご飯に行ってて遅くなっちゃっただけだから」
『そうか。それならいいんだ』
「・・・・」
『・・・・』
沈黙が流れる。
これ以上話すことも浮かばず、
「それじゃ」
と電話を切ろうとした。
『待って』
「ん?」
『直幸に、家に帰るなら送ってけどどうするか聞いてくれるか?』
「家って・・・今どこにいるの?」
『近く』
「うちの近くにいるの?」
『ああ。コンビニのとこ』
それは・・・。
そこに車でいるってことは、私を心配してきてくれたってことなんだろうか。
「ちょっと待ってて。聞いてくる・・・」
裕太に尋ねると、「やった。明日、一回家に戻るの面倒だったんだよね」と「10分待ってって伝えて」と。
『時間は気にしなくていいから、しっかり頭乾かして来いって言っといて』
「裕太、コンビニで待ってるの?」
『ああ』
「うちで・・・ううん。なんでもない」
うちで待っているかと聞きかけて言うのを止めた。
直幸にこのアパートを教えたのだから、裕太が場所を知っていても何らおかしなことはない。
けれど、私の口から部屋で待つように言うのは憚られる。部屋にあげたくないし。
「心配かけてごめん。ここまで来てくれてありがとう」
『別に大したことじゃない。気にするな』
「うん。それじゃ」
『千夏!』
「ん?」
『今度、飯食いに行くか?』
「行かない」
ぴっ。
速攻で通話を切った。