幸せのつかみ方
朝蔵葉子ー--樹さんのお姉さんで内科医。

「おつかれさまです」
立ち上がり、お辞儀する。

「お疲れ様、えっと・・・」
葉子先生は私の首から下げているはずの名札を探した。
休憩中は名札をポケットに入れておくので、私は名札を出して首から下げた。

「医務課の茅間です」
「茅間さん・・・。樹がお世話になってます。姉の朝蔵葉子です」

「何か用だった?」
と樹さんが葉子先生に話しかける。

「樹が昼休憩に屋上で事務さんとデートしてるって看護師たちが泣いてたから見物に来たの」
「はあぁ?」

樹さんは不愉快そうに片方の眉を動かした。

「看護師の間で樹の同性愛説が出てるの知ってる?
みんな私に聞いてくるけど、若い頃、寄ってくる女の子たちをとっかえひっかえしていた黒歴史を言うわけにもいかないしさ。
そうそう、お父さんもお母さんもその噂信じて心配してるわよ。
この際、性別は気にしないから、パートナーがいて欲しいんだってさ。
笑ったわー」
からからと明るく話す葉子先生に樹さんは冷たい視線を送った。
「それで、何が言いたいんだ?」

可笑しそうに話す葉子先生を樹さんは見下ろす様に睨みつけている。
私は、葉子先生が暴露した樹さんの黒歴史に驚きと納得をしていた。

「女の子に冷たい樹が茅間さんと話してる時はとろとろの顔してるんだもんねー。驚いた!」
ちらりとこちらを見られて目があった。
葉子先生も樹さん同様にきれいな顔をしていた。
にっこりとほほ笑まれて葉子先生はやはり樹さんと似ていると思った。

そしてその樹さんに視線を戻した葉子先生は、
「いいもの見せてもらったわー」
と嬉しそうだ。反対に樹さんは不機嫌なままで。
「見世物ではないんだけど?」
と言った。

「茅間さん、これからも樹をよろしくお願いします」
と葉子さんが唐突に私に話を振った。
二人の会話を聞いているだけだった私は驚いて、声を上げた。
「いえっ!違いますから!」
「え?」

樹さんの顔を見ないように葉子先生にはっきりと話す。

「樹さんと私は・・・お付き合いしてませんから」
「ええ?!」
葉子先生は驚いたようで大きな目をさらに大きくしていた。
笑顔のまま固まっている隙に、お辞儀をして、
「それでは、すみません。失礼します」
とお弁当バックを持って屋上を後にした。
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