幸せのつかみ方
クラフトコーラのおいしさと面白さにひかれ、車でもう1件、他のクラフトコーラの店に行った。
樹さんと過ごした時間はあっという間だった。
あたりが暗くなり始めた頃、
「樹さん、今日は私がごちそうします」
と言った。
「え?誘ったのは俺だし、そんなの気にしないで、千夏さんが食べたいと思うものを食べに行こうよ」
という樹さんに、
「ダメです。前にごちそうする約束しましたよ。
だから今日はごちそうします。
『なんでも食べたいものを言ってください』って言いたいところですけど、諸事情により大衆居酒屋です」
「いいけど。諸事情って?」
「懐事情とも言います」
「ははっ。それなら奢られてたらいいのに」
と笑われたけれど、今日は絶対にひくことはできない。
なぜなら、今日を最後にもう樹とは会わないと決めていたから。
最後に一緒に食事に行く。
安い居酒屋。
個室もなく、カウンター席とテーブル席、お座敷席のある大手チェーン店に入った。
私たちはカウンターの端に並んで座っている。
樹さんは浮いていた。
上着を脱ぎ、袖をめくっているその姿は周囲のお客さんと同じ。
でも、隣に座る人とは明らかに違う。
椅子の背もたれに掛けられたジャケットは、質の良い生地だし、
着ているシャツの生地も同様によい。
長い足はカウンターの下では窮屈なようで、足を少し外に出している。
背が高く、座っているのに周囲より頭の位置が高い。
均整の取れた筋肉。
きめ細かい肌と、整った顔立ち。
そんないい男が肘をつき、横に座る私に微笑みながら話しかけている。
私には釣り合わない。
彼の横に座るべき女性は私ではない。
そうわかっているし、これから伝えなくてはならない。
けれど、樹さんの笑顔を見ていたくて。
声を聞いていたくて。
ずるずると時間が過ぎていく。
樹さんと過ごした時間はあっという間だった。
あたりが暗くなり始めた頃、
「樹さん、今日は私がごちそうします」
と言った。
「え?誘ったのは俺だし、そんなの気にしないで、千夏さんが食べたいと思うものを食べに行こうよ」
という樹さんに、
「ダメです。前にごちそうする約束しましたよ。
だから今日はごちそうします。
『なんでも食べたいものを言ってください』って言いたいところですけど、諸事情により大衆居酒屋です」
「いいけど。諸事情って?」
「懐事情とも言います」
「ははっ。それなら奢られてたらいいのに」
と笑われたけれど、今日は絶対にひくことはできない。
なぜなら、今日を最後にもう樹とは会わないと決めていたから。
最後に一緒に食事に行く。
安い居酒屋。
個室もなく、カウンター席とテーブル席、お座敷席のある大手チェーン店に入った。
私たちはカウンターの端に並んで座っている。
樹さんは浮いていた。
上着を脱ぎ、袖をめくっているその姿は周囲のお客さんと同じ。
でも、隣に座る人とは明らかに違う。
椅子の背もたれに掛けられたジャケットは、質の良い生地だし、
着ているシャツの生地も同様によい。
長い足はカウンターの下では窮屈なようで、足を少し外に出している。
背が高く、座っているのに周囲より頭の位置が高い。
均整の取れた筋肉。
きめ細かい肌と、整った顔立ち。
そんないい男が肘をつき、横に座る私に微笑みながら話しかけている。
私には釣り合わない。
彼の横に座るべき女性は私ではない。
そうわかっているし、これから伝えなくてはならない。
けれど、樹さんの笑顔を見ていたくて。
声を聞いていたくて。
ずるずると時間が過ぎていく。