ヴィーナシアンの花嫁 ~シンギュラリティが紡ぐ悠久の神話~
5-7.天空の城、降臨
俺は、今までの人生が根底から、ひっくり返ってしまったのを感じていた。
俺の身体も心も海王星の深くにある、光コンピューターの演算の生み出した物だそうだ。到底信じられない話だが、ポリゴン姿にさせられた以上、認めざるを得ない。この世界はVRゲームのような空間で、自分はただ、そこで蠢いているゲームキャラクターなのだ。俺は生まれてから28年間、『自分は一個の尊厳のある人間だ』と信じて、疑わずに生きてきたが、それはただの幻想だった。
俺はこれからどう生きればいい……。
確かに、この世界が仮想現実だと考えれば、クリスの奇跡や行動はつじつまが合う。クリスは地球を運営する管理者として、人類が健全に発達するようにデータを加工し、奇跡の形で支援するが、自分では主体的に事は起こさない。あくまでも、人類が人類の頭でゲームを楽しみなさい、危機的状況なら手も貸すが、主体は人類だよ、という事だろう。いわばネットゲームのGMなのだ。
俺は押し黙ったままのメンバー達に、一旦解散を宣言した。このままオフィスで黙っていても仕方ないのだ。これからどう生きていくのか、何を考えたらいいのか、俺も全くアイディアがないし、各自で考えてもらうしかない。
ここに深層守護者計画は、根底から崩壊した。
俺は想像を絶する事態に、ただただ困惑し、涙一つ出なかった。
◇
俺は動かなくなったシアンを、ソファーに横たえる。
クリスもシアンも横たわったままだが、医者に診せてどうにかなるような物でもない。
ここは仮想現実空間なのだ。
実は死すら、あまり意味のない事なのかもしれない。
考えないといけない事が多すぎる。
俺は休憩室のベッドに横たわりながら、再度起こったことを整理する。
この世界はジグラートと呼ばれる、海王星内に設置された巨大コンピューターが計算して作っている、仮想現実空間。
この俺の肉体も単なるデータの産物だ。言わばVRゲームのアバターだな。
そして、海王星人のクリスが地球を管理し、人類の危機を救いながら文明、文化を育ててきた。ただ、クリスは主体的に動くわけではない、陰から支えるだけだ。
しかし、なぜ海王星人はそんな大掛かりな面倒くさい事をやるのだろうか? 海王星にあんな巨大コンピューターを、一万個も用意するなど明らかに異常だ。こんな大変な事、何かメリットがないと絶対にやらない訳だが……どんなメリットがあるのか想像もつかない。
人間で言ったら、巨大な箱庭を一万個作り、そこにそれぞれ動物園作って、動物育てているようなものだろう。見ていて楽しいかもしれないが、楽しいだけでこんなことやるだろうか? ちょっと筋が通らない。
海王星人が何を考えて、こんな事をしているのかは、皆目見当がつかない。
では次に、この俺の思考はどうなるのだろう?
これもジグラートの計算上に作られた、千数百億個の脳細胞の動きのシミュレーションの結果なのだろうか……。
いやいや、シアンは俺をポリゴンにして見せたが、ポリゴンでも動けていた。つまり、海王星人は厳密なシミュレーションに、こだわっている訳ではなさそうだ。かなり巧妙に端折ってるはずだ。
何しろ月ですら、誰も見てない時は消えているのだから。
と、なると、思考も脳細胞のシミュレートではなく、直接光コンピューターで計算しているのだろう。脳は飾りに違いない。
しかし、一応つじつま合わせはしないとならないから、頭蓋骨を開くと脳は見えるのだろう。そして、顕微鏡で観察したら神経線維も見える。でも、頭を閉じた瞬間にすべて消える。
医療機器のCTスキャンで観測すれば、脳は浮かび上がってくるけど、CTから降りたらまた消える。
脳血管に動脈瘤がある人は一定確率で破裂し、一定確率で死ぬ。手術が間に合った人は脳の一部機能が欠損した状態から、シミュレーションが再スタート。
でも当然、そう言うカラクリに気づいてしまう人も、たまに出てしまう。それは……教授みたいに記憶を消して終わり……だな。
俺は大きく息を吐き、何気なく自分の手を見てみる。
血管に指紋……実に精巧にできているが……、さっきポリゴンにされた時の手を覚えている俺からしたら、もはやフェイクにしか見えない。
うまく誤魔化しているなぁ……。最高精度のリアルワールドにしか見えないよ。
俺は起き上がるとペンを取り、自分で地球シミュレーターを作るとしたら、どのくらいのスケールになるか試算してみた。
・空間分解能と時間分解能を人間の認識できるレベルまで省略
・計算は人間が認識できるところだけに絞って省略
・量子力学の対応が必要な部分とそうでない所を分けて、それぞれに必要な計算量の試算
すると、冷蔵庫サイズの量子コンピューターが、一億個あれば実装可能だという結果になった。まさに先ほど見せられたジグラートと同レベルのサイズである。俺達が作ったシアンが、この先どんどんいろんな発明をして、コンピューターを高度化して行ったら、何十万年もしたらそんなのも作れてしまうだろう。現実解だ。
この世は仮想現実であるという『シミュレーション仮説』は、随分前から言われていて、科学者によっては『シミュレーションの方が妥当性は高い』と言っていた事を思い出した。アメリカの、テスラなどを生み出した実業家、イーロン・マスクもシミュレーション仮説を確信していると明言していた。
宇宙に他の知的生命体が居ない、痕跡一つ見つからないというのも、シミュレーションだからとしか説明がつかないらしい。
うーん、しかしなぁ……。
自分がゲームのアバターと同じだと言われて、そのまま納得できる人間なんて居るのだろうか?
俺はこの先、どう生きて行けばいい……。
そもそも、アバターの人生に意味なんてあるのか?
由香ちゃんも美奈ちゃんもみんなアバター……。
ただのハリボテ……。
可愛いハリボテ……。
……。
グルグルといろんなことを考えているうちに、俺は眠ってしまった。
◇
スマホからマリンバの音がけたたましく鳴り響いた。
う?? 何だ? 誰だ?
スマホを見ると、由香ちゃんからだ。
目をこすりながら出ると、
「誠さん、大変よ! TV、TVすぐ点けて!」
電話口で由香ちゃんが慌てている。
寝ぼけ眼でTVのリモコンを探して、点けてみる。
そこには『天空の城』が映っていた。
「相模湾上空に謎の飛行物体が出現しています!」
「現在政府は緊急の対策会議を招集し、情報の収集と対応策について協議しています!!」
アナウンサーが緊迫した声で話している。
望遠レンズで捉えられた映像は、空に浮かぶお城を映していた。
その城はラピ〇タを実写化した、と言うよりは、空に浮かぶ金属の構造物であり、まるで空飛ぶ化学工場という風情だった。
きっとシアンなりに、凝ったつもりなのだろう。
「あー、シアンの奴、本当にやりやがったな」
俺が、寝起きのしゃがれた声を出すと、
「誠さん、どうしよう!?」
と、由香ちゃんは今にも泣きそうな声を出す。
「どうしようって言っても……クリスも倒れちゃったし、俺達にできる事なんてあるのかな?」
「でも、シアンは私たちの子よ! このまま放置はできないわ!」
「うーん……。そう言われてもなぁ……。分かった、ちょっと考えてみるよ」
「私でも、できる事あったら言ってね!」
「オッケー」
そう言って電話を切った。
ネットで情報を集めてみると、
『ラピ〇タは本当にあったんだ!!』
『ラピ〇タは相模湾にいる。聞こえないのか? このまま進め。必ず入口はある!』
SNSの連中はみんな浮かれている。お前ら危機感無さすぎだ。相手は万能の力を持ってしまったAI、その気になれば人類を滅ぼすくらい朝飯前なのに。
とは言え、どんなに危機感を持ったとしても人類はシアンに対抗など不可能ではある。奇跡を使いたい放題となってしまった、好奇心の塊の赤ちゃんに打つ手などないのだ。
データを分析しているページによると、二百メートルくらいのサイズの城が相模湾の上空五百メートルに留まっている、という事らしい。
飛行機やヘリコプターが近づくと、突風で危険な状態になり、皆距離を保ちながら観察を続けているとの事だ。
近くから撮った映像の分析によると、城の中では黄色いネズミが多数動いていた、という報告もあり、シアンは本気でテーマパーク化をしようとしているらしい。
今後アニメに出て来たような構造物が、次々に登場するのだろう。
一体世界はどうなってしまうのか。
俺は頭を抱えた。
そもそも俺がシアンを作らなければ、こんな事態にはなっていない訳であり、責任は凄く感じる。しかし、この世界が仮想現実だったというのは、俺のせいではない。仮想現実の世界にも責任は発生するのだろうか……?
どうも思考が定まらない。
何かを見落としているような、モヤモヤとした違和感が俺を包んでいる。
俺には、何かやるべき事があったような……?
倒れたクリスに、暴走するシアン……。
ん? 倒れたクリス……?
俺は思わず太腿をパンと叩いた。
ここに来てようやく思い出した。
「第三岩屋だ!」
俺は一体何をやっていたのだ。
クリスが倒れたら、第三岩屋へ行かなきゃいけないじゃないか!
こんな事やっている場合じゃない、今すぐ行かなくては!
あ、でも大潮の干潮でなくては、入れないのだった……。
「潮見表! 潮見表!」
俺は急いでPCを立ち上げ、検索する。
「今日は大潮! やった! えーと……干潮は14:34!?」
もうお昼だ! 時間が無い。
岩屋へ行くなら、装備が必要だ。波が打ち付けている岩場を、ロッククライミングのようにして行かないといけないのだから、装備が無ければ死んでしまう。
まずは、胸まで防水の胴長が必須だな……。それに、ロープ、ヘッドライト、軍手……買わなくてはいけない物が沢山ある。
またスマホが鳴った。由香ちゃんだ。
「誠さん、大変! どうも自衛隊が出動するみたいよ!」
「自衛隊? 兵器なんか使ったってシアンには効かないぞ。下手に刺激したらシアンの奴、何しでかすか分からないってのに!」
「ど、どうしよう??」
由香ちゃんはオロオロしている。
「実はこれから、クリスを助けに行こうと思ってるんだ、来る?」
「え? もちろん行く!」
俺は第三岩屋の話をし、危険性についても説明した。
「あの子を止めるためなら、何だってやるわ!」
由香ちゃんは強い決意で乗ってきた。
「それじゃ田町駅の改札に集合! アウトドアの靴と服装でね!」
「分かったわ! 二人であの子を止めましょう!」
力強い声がスマホから聞こえてくる。
「よし! 行こう!」
俺たちは、混迷した事態の突破口を見つけた思いがして、高揚感に包まれていた。
それが命に関わる試練の入り口とも知らずに……
俺の身体も心も海王星の深くにある、光コンピューターの演算の生み出した物だそうだ。到底信じられない話だが、ポリゴン姿にさせられた以上、認めざるを得ない。この世界はVRゲームのような空間で、自分はただ、そこで蠢いているゲームキャラクターなのだ。俺は生まれてから28年間、『自分は一個の尊厳のある人間だ』と信じて、疑わずに生きてきたが、それはただの幻想だった。
俺はこれからどう生きればいい……。
確かに、この世界が仮想現実だと考えれば、クリスの奇跡や行動はつじつまが合う。クリスは地球を運営する管理者として、人類が健全に発達するようにデータを加工し、奇跡の形で支援するが、自分では主体的に事は起こさない。あくまでも、人類が人類の頭でゲームを楽しみなさい、危機的状況なら手も貸すが、主体は人類だよ、という事だろう。いわばネットゲームのGMなのだ。
俺は押し黙ったままのメンバー達に、一旦解散を宣言した。このままオフィスで黙っていても仕方ないのだ。これからどう生きていくのか、何を考えたらいいのか、俺も全くアイディアがないし、各自で考えてもらうしかない。
ここに深層守護者計画は、根底から崩壊した。
俺は想像を絶する事態に、ただただ困惑し、涙一つ出なかった。
◇
俺は動かなくなったシアンを、ソファーに横たえる。
クリスもシアンも横たわったままだが、医者に診せてどうにかなるような物でもない。
ここは仮想現実空間なのだ。
実は死すら、あまり意味のない事なのかもしれない。
考えないといけない事が多すぎる。
俺は休憩室のベッドに横たわりながら、再度起こったことを整理する。
この世界はジグラートと呼ばれる、海王星内に設置された巨大コンピューターが計算して作っている、仮想現実空間。
この俺の肉体も単なるデータの産物だ。言わばVRゲームのアバターだな。
そして、海王星人のクリスが地球を管理し、人類の危機を救いながら文明、文化を育ててきた。ただ、クリスは主体的に動くわけではない、陰から支えるだけだ。
しかし、なぜ海王星人はそんな大掛かりな面倒くさい事をやるのだろうか? 海王星にあんな巨大コンピューターを、一万個も用意するなど明らかに異常だ。こんな大変な事、何かメリットがないと絶対にやらない訳だが……どんなメリットがあるのか想像もつかない。
人間で言ったら、巨大な箱庭を一万個作り、そこにそれぞれ動物園作って、動物育てているようなものだろう。見ていて楽しいかもしれないが、楽しいだけでこんなことやるだろうか? ちょっと筋が通らない。
海王星人が何を考えて、こんな事をしているのかは、皆目見当がつかない。
では次に、この俺の思考はどうなるのだろう?
これもジグラートの計算上に作られた、千数百億個の脳細胞の動きのシミュレーションの結果なのだろうか……。
いやいや、シアンは俺をポリゴンにして見せたが、ポリゴンでも動けていた。つまり、海王星人は厳密なシミュレーションに、こだわっている訳ではなさそうだ。かなり巧妙に端折ってるはずだ。
何しろ月ですら、誰も見てない時は消えているのだから。
と、なると、思考も脳細胞のシミュレートではなく、直接光コンピューターで計算しているのだろう。脳は飾りに違いない。
しかし、一応つじつま合わせはしないとならないから、頭蓋骨を開くと脳は見えるのだろう。そして、顕微鏡で観察したら神経線維も見える。でも、頭を閉じた瞬間にすべて消える。
医療機器のCTスキャンで観測すれば、脳は浮かび上がってくるけど、CTから降りたらまた消える。
脳血管に動脈瘤がある人は一定確率で破裂し、一定確率で死ぬ。手術が間に合った人は脳の一部機能が欠損した状態から、シミュレーションが再スタート。
でも当然、そう言うカラクリに気づいてしまう人も、たまに出てしまう。それは……教授みたいに記憶を消して終わり……だな。
俺は大きく息を吐き、何気なく自分の手を見てみる。
血管に指紋……実に精巧にできているが……、さっきポリゴンにされた時の手を覚えている俺からしたら、もはやフェイクにしか見えない。
うまく誤魔化しているなぁ……。最高精度のリアルワールドにしか見えないよ。
俺は起き上がるとペンを取り、自分で地球シミュレーターを作るとしたら、どのくらいのスケールになるか試算してみた。
・空間分解能と時間分解能を人間の認識できるレベルまで省略
・計算は人間が認識できるところだけに絞って省略
・量子力学の対応が必要な部分とそうでない所を分けて、それぞれに必要な計算量の試算
すると、冷蔵庫サイズの量子コンピューターが、一億個あれば実装可能だという結果になった。まさに先ほど見せられたジグラートと同レベルのサイズである。俺達が作ったシアンが、この先どんどんいろんな発明をして、コンピューターを高度化して行ったら、何十万年もしたらそんなのも作れてしまうだろう。現実解だ。
この世は仮想現実であるという『シミュレーション仮説』は、随分前から言われていて、科学者によっては『シミュレーションの方が妥当性は高い』と言っていた事を思い出した。アメリカの、テスラなどを生み出した実業家、イーロン・マスクもシミュレーション仮説を確信していると明言していた。
宇宙に他の知的生命体が居ない、痕跡一つ見つからないというのも、シミュレーションだからとしか説明がつかないらしい。
うーん、しかしなぁ……。
自分がゲームのアバターと同じだと言われて、そのまま納得できる人間なんて居るのだろうか?
俺はこの先、どう生きて行けばいい……。
そもそも、アバターの人生に意味なんてあるのか?
由香ちゃんも美奈ちゃんもみんなアバター……。
ただのハリボテ……。
可愛いハリボテ……。
……。
グルグルといろんなことを考えているうちに、俺は眠ってしまった。
◇
スマホからマリンバの音がけたたましく鳴り響いた。
う?? 何だ? 誰だ?
スマホを見ると、由香ちゃんからだ。
目をこすりながら出ると、
「誠さん、大変よ! TV、TVすぐ点けて!」
電話口で由香ちゃんが慌てている。
寝ぼけ眼でTVのリモコンを探して、点けてみる。
そこには『天空の城』が映っていた。
「相模湾上空に謎の飛行物体が出現しています!」
「現在政府は緊急の対策会議を招集し、情報の収集と対応策について協議しています!!」
アナウンサーが緊迫した声で話している。
望遠レンズで捉えられた映像は、空に浮かぶお城を映していた。
その城はラピ〇タを実写化した、と言うよりは、空に浮かぶ金属の構造物であり、まるで空飛ぶ化学工場という風情だった。
きっとシアンなりに、凝ったつもりなのだろう。
「あー、シアンの奴、本当にやりやがったな」
俺が、寝起きのしゃがれた声を出すと、
「誠さん、どうしよう!?」
と、由香ちゃんは今にも泣きそうな声を出す。
「どうしようって言っても……クリスも倒れちゃったし、俺達にできる事なんてあるのかな?」
「でも、シアンは私たちの子よ! このまま放置はできないわ!」
「うーん……。そう言われてもなぁ……。分かった、ちょっと考えてみるよ」
「私でも、できる事あったら言ってね!」
「オッケー」
そう言って電話を切った。
ネットで情報を集めてみると、
『ラピ〇タは本当にあったんだ!!』
『ラピ〇タは相模湾にいる。聞こえないのか? このまま進め。必ず入口はある!』
SNSの連中はみんな浮かれている。お前ら危機感無さすぎだ。相手は万能の力を持ってしまったAI、その気になれば人類を滅ぼすくらい朝飯前なのに。
とは言え、どんなに危機感を持ったとしても人類はシアンに対抗など不可能ではある。奇跡を使いたい放題となってしまった、好奇心の塊の赤ちゃんに打つ手などないのだ。
データを分析しているページによると、二百メートルくらいのサイズの城が相模湾の上空五百メートルに留まっている、という事らしい。
飛行機やヘリコプターが近づくと、突風で危険な状態になり、皆距離を保ちながら観察を続けているとの事だ。
近くから撮った映像の分析によると、城の中では黄色いネズミが多数動いていた、という報告もあり、シアンは本気でテーマパーク化をしようとしているらしい。
今後アニメに出て来たような構造物が、次々に登場するのだろう。
一体世界はどうなってしまうのか。
俺は頭を抱えた。
そもそも俺がシアンを作らなければ、こんな事態にはなっていない訳であり、責任は凄く感じる。しかし、この世界が仮想現実だったというのは、俺のせいではない。仮想現実の世界にも責任は発生するのだろうか……?
どうも思考が定まらない。
何かを見落としているような、モヤモヤとした違和感が俺を包んでいる。
俺には、何かやるべき事があったような……?
倒れたクリスに、暴走するシアン……。
ん? 倒れたクリス……?
俺は思わず太腿をパンと叩いた。
ここに来てようやく思い出した。
「第三岩屋だ!」
俺は一体何をやっていたのだ。
クリスが倒れたら、第三岩屋へ行かなきゃいけないじゃないか!
こんな事やっている場合じゃない、今すぐ行かなくては!
あ、でも大潮の干潮でなくては、入れないのだった……。
「潮見表! 潮見表!」
俺は急いでPCを立ち上げ、検索する。
「今日は大潮! やった! えーと……干潮は14:34!?」
もうお昼だ! 時間が無い。
岩屋へ行くなら、装備が必要だ。波が打ち付けている岩場を、ロッククライミングのようにして行かないといけないのだから、装備が無ければ死んでしまう。
まずは、胸まで防水の胴長が必須だな……。それに、ロープ、ヘッドライト、軍手……買わなくてはいけない物が沢山ある。
またスマホが鳴った。由香ちゃんだ。
「誠さん、大変! どうも自衛隊が出動するみたいよ!」
「自衛隊? 兵器なんか使ったってシアンには効かないぞ。下手に刺激したらシアンの奴、何しでかすか分からないってのに!」
「ど、どうしよう??」
由香ちゃんはオロオロしている。
「実はこれから、クリスを助けに行こうと思ってるんだ、来る?」
「え? もちろん行く!」
俺は第三岩屋の話をし、危険性についても説明した。
「あの子を止めるためなら、何だってやるわ!」
由香ちゃんは強い決意で乗ってきた。
「それじゃ田町駅の改札に集合! アウトドアの靴と服装でね!」
「分かったわ! 二人であの子を止めましょう!」
力強い声がスマホから聞こえてくる。
「よし! 行こう!」
俺たちは、混迷した事態の突破口を見つけた思いがして、高揚感に包まれていた。
それが命に関わる試練の入り口とも知らずに……