変態御曹司の飼い猫はわたしです
1 プロローグ
少しずつ夏の暑さも和らぎ、夜風が涼しくなってきた頃。空にはもうすぐ丸くなるであろう月が登り、その明かりに負けないくらい光り輝くビル群。
三十階からの景色は、とても煌びやかだ。
さっきまで煤まみれだったはずなのに、今は綺麗なワンピースを着ている。夜景の見えるフレンチレストランでディナーをした後は、ホテルのバーで乾杯して。
まるで魔法をかけてもらったみたい。
目の前には、極上のイケメン。
今日初めて出会った彼は、私の状況を聞いて何やら思案している。その悩ましげな顔でさえ、魅力的に見えるから不思議だ。
「ねぇ」
ディナーをしていた時は、まだ敬語だったはずなのに、彼は気安く話し始めている。
「タマちゃんって呼んでもいいかな?」
私の名前が珠希というので、そのあだ名は間違ってはいない。だが、今日が初対面の男性に呼ばれるのは、なんだかくすぐったい。
私が照れつつも頷くと、嬉しそうに笑う。あぁ、その笑顔も素敵……と、うっとりしていたら、彼は突拍子もないことを言い出した。
「じゃあ、僕が、タマちゃんを飼うのはどうかな」
「か、買う!?」
「うん。タマちゃんって、なんだか猫みたいだから、飼いたいなって」
『買う』ではなく、犬や猫を『飼う』という意味か。
いや、どちらにしても意味がわかりません!
彼の背に輝く夜景。それに負けないくらい、キラキラとした微笑みにクラクラする。目の保養になるくらいのイケメンになら飼われても……ってそんなわけない!
大体、人間が人間を飼うとは? どういうことなの? 疑問が次々と頭の中で浮かんでいく。
「あの、それは、どういう……?」
「うん? だからね、タマちゃんを僕の猫にしたい。僕の家に来ない?」
やっぱり、全く意味が分かりません!
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