変態御曹司の飼い猫はわたしです
「今日は本当にありがとうございました」
レストランを出て一ノ瀬さんにお礼を言うと、「もう少し付き合ってくれるかな?」と、同じホテルのバーに誘われた。
先程までのレストランとは別の、お洒落な雰囲気のお店だ。夜景の見えるカウンターに二人並んで座る。
お酒はあまり強くないことを伝えると、綺麗なオレンジ色のカクテルが出てきた。オレンジジュースのような味わいで安心する。
「……ふふっ」
「どうしたの?」
「夢を見ているみたいです。今日の夕方まで、絶望のどん底にいたんです。だから、こんなに幸せでいいのかなって」
「幸せ?」
「はい! あのレストランに行くことが、この数ヶ月の私の心の支えでしたから! それが叶って、嬉しいんです」
「……それは、よかった」
夜景を眺めながら、ゆったりとお酒を飲んでいく。一ノ瀬さんは主に聞き役に徹してくれていて、私の身の上話ばかりさせられている気がするが、気分がよかった。
レストランでワインを嗜んでいたし、元々お酒に弱い私はどんどん饒舌になってしまっていた。
幼い頃のこと、ここ一年はパワハラとセクハラに悩んでいて、今日退職したこと。そして、火事に遭ったこと。
次々と訪れてきた苦難も、夢心地なせいか、自分のことではないような気分になってくる。こうしてお洒落なバーで綺麗な服を着ている自分が、本当の私だったらいいのに。
──この夢はきっと、明日覚めるけれど。
「火事に遭ったのは、君のご実家?」
「一人暮らしのアパートです。実家は静岡で、母が一人。退職届を出した途端、家も無くなってびっくりしましたよ、ふふふっ」
結構酔いが回ってきていて、とても気分がいい。
「これから、どこに住むか決めてる?」
「友人は既婚者が多くて、転がり込むのも申し訳ないので、新しい家が見つかるまでは格安ホテルか何処かで過ごします。実家に帰るのも手ですけど、それは最終手段かなぁ。貯蓄もあるので、なんとかなると思います」
「ふぅん」
「?」
何やら悩ましげに考え込む一ノ瀬さん。よく見ると、すっごい整った顔だな。かっこいい。しかも、見ず知らずの煤まみれ女に優しくできる人だもの、モッテモテに違いない。
レストランを出て一ノ瀬さんにお礼を言うと、「もう少し付き合ってくれるかな?」と、同じホテルのバーに誘われた。
先程までのレストランとは別の、お洒落な雰囲気のお店だ。夜景の見えるカウンターに二人並んで座る。
お酒はあまり強くないことを伝えると、綺麗なオレンジ色のカクテルが出てきた。オレンジジュースのような味わいで安心する。
「……ふふっ」
「どうしたの?」
「夢を見ているみたいです。今日の夕方まで、絶望のどん底にいたんです。だから、こんなに幸せでいいのかなって」
「幸せ?」
「はい! あのレストランに行くことが、この数ヶ月の私の心の支えでしたから! それが叶って、嬉しいんです」
「……それは、よかった」
夜景を眺めながら、ゆったりとお酒を飲んでいく。一ノ瀬さんは主に聞き役に徹してくれていて、私の身の上話ばかりさせられている気がするが、気分がよかった。
レストランでワインを嗜んでいたし、元々お酒に弱い私はどんどん饒舌になってしまっていた。
幼い頃のこと、ここ一年はパワハラとセクハラに悩んでいて、今日退職したこと。そして、火事に遭ったこと。
次々と訪れてきた苦難も、夢心地なせいか、自分のことではないような気分になってくる。こうしてお洒落なバーで綺麗な服を着ている自分が、本当の私だったらいいのに。
──この夢はきっと、明日覚めるけれど。
「火事に遭ったのは、君のご実家?」
「一人暮らしのアパートです。実家は静岡で、母が一人。退職届を出した途端、家も無くなってびっくりしましたよ、ふふふっ」
結構酔いが回ってきていて、とても気分がいい。
「これから、どこに住むか決めてる?」
「友人は既婚者が多くて、転がり込むのも申し訳ないので、新しい家が見つかるまでは格安ホテルか何処かで過ごします。実家に帰るのも手ですけど、それは最終手段かなぁ。貯蓄もあるので、なんとかなると思います」
「ふぅん」
「?」
何やら悩ましげに考え込む一ノ瀬さん。よく見ると、すっごい整った顔だな。かっこいい。しかも、見ず知らずの煤まみれ女に優しくできる人だもの、モッテモテに違いない。