変態御曹司の飼い猫はわたしです
「あ、ホテル代と食事代と、お洋服代と……色々お支払いさせてください」
「いいよ。僕からのお見舞い」
「でも」
「うーん、結構高額になっちゃうけど……」
耳打ちで教えてもらった金額は、思っていたものよりも0が一つ多かった。酔いが少し醒めていく。
「ぶ、分割払いで……お、お願いします……」
「僕の気持ちだからいいよ」
「でも、甘えられません! そ、そうだ! 退職したばかりで時間はありますし、皿洗いとか掃除とか、人手不足の場所で働かせていただけませんか?」
「そうだなぁ」
図々しい申し出だろうか。ハラハラしながら一ノ瀬さんの回答を待つ。
暫く考え込んでいた一ノ瀬さんは、何やら面白いことを思いついたような顔になった。
「ねぇ」
ディナーをしていた時はまだ敬語だったはずなのに、いつからか一ノ瀬さんは気安い喋り口調に変わっている。だが、それを不快に思わない自分もいる。
「タマちゃんって呼んでもいいかな?」
(珠希だから、タマちゃん? 何だかくすぐったい)
私が照れつつも頷くと、嬉しそうに笑う。あぁ、その笑顔も素敵……と、うっとりしていたら、予想もつかないことを言われた。
「じゃあ、僕が、タマちゃんを飼うのはどうかな」
「か、買う!?」
職無し宿無しだからって、身売り?!
「うん、タマちゃんって、なんだか猫みたいだから、飼いたいなって」
(『買う』じゃなくて、犬や猫を『飼う』方ってこと?)
「あの、それは、どういう……?」
「うん? だからね、タマちゃんを僕の猫にしたい。僕の家に来ない?」
極上のイケメンから発せられた、訳のわからない言葉に、私はただひたすら困惑するしかなかった。