変態御曹司の飼い猫はわたしです
なんとなく身の危険を感じつつ、食事の用意をする。今夜のメニューは、栗ご飯に豆腐の味噌汁、鯖の塩焼きに大根おろしを添えて、里芋の煮物、ほうれん草のお浸しだ。
「美味しい」
「でも、一ノ瀬コーポレーションの直営レストランを巡ったら、毎日美味しいご飯食べられるんじゃないですか? 私の手料理なんてお口に合わないんじゃ」
「そんなことないよ。接待で食べるのは高級料理ばかりだし、僕の母は家事しない人だったのもあって、こういう家庭の手料理に憧れてたんだ。それにお世辞抜きにしても、タマちゃんのご飯はすごく美味しいよ」
「あ、ありがとうございます」
今朝もそうだったけれど、作った料理を美味しそうに食べてくれるのって、こんなに嬉しいものなんだな、と実感する。母と二人で暮らしていた時は、母が帰宅するのが夜中だったこともあり、一人で食べていた。
「そういえば、タマちゃん、大家さんから連絡あった?」
「はい。火事の原因は放火だったみたいで……」
「放火……ね」
「アパートのものはほとんど燃えていて、危険だから二階部分は立ち入りできないそうです。もう住むのは無理だから、新しい家を探すように言われました」
「そっか。罹災証明とか保険請求とか僕が休みの日に一緒にするからね」
いつまで私はこの家にいていいのだろう。
申し訳なさが募る。
「本当に、お世話になりっぱなしで……すみません」
「タマちゃんは僕の猫ちゃんだからね。僕を頼って?」
「……はい」
一ノ瀬さんは私の頭をまた撫でる。男性に触れられるのは怖かったはずだけど、一ノ瀬さんの手は大きくて温かくて、安心した。