変態御曹司の飼い猫はわたしです
曾根課長に会った夜、私は熱を出した。
それをキッカケに、一ノ瀬さんはハウスキーパーを再び雇うことにしたという。さすがプロ。私が日々念入りに掃除している箇所も、どんどん綺麗になっていく。
私は、まだ微熱が続く身体は怠く、ハウスキーパーの吉乃さんが淹れてくれた緑茶を飲みながらリビングの大きなソファにもたれていた。
(私の職業が、本当に飼い猫になってしまう……)
料理だけは担当させて欲しいと訴えたものの、熱がある間は何もするなと言われ、全部吉乃さんがしてくれている。
このままだとただの居候だ。例のホテル代やフレンチレストランの食事さえも返せていないのに。
しかも、それどころか一ノ瀬さんは、甲斐甲斐しく看病してくれるのだ。
昨晩は、アイスを大量に買ってきてくれた。
「タマちゃん、アイス買ってきたよ。食べられる?」
「アイス……嬉しいです」
「えっとね、バニラとチョコとストロベリーと抹茶と──」
「ちょッ、どれだけ買ってきてるんですかッ」
思わず飛び起きると、信じられない量のアイスが目に入る。しかも、最近できた人気のジェラートショップのカップで、並ばなければ買えないはずだ。まさか、一ノ瀬さんが並んでないよね……?
「沢山あるから、僕が出社してる間も食べていいよ。吉乃さんにもあげて」
「あ、ありがとうございます……」
お金を沢山使う方向で面倒を見られるのは心苦しい。なるべく私のためにお金を使わないでほしい。だが、そんなことを言ってしまって、距離をとられるのも、寂しい気がしてしまう自分がいる。熱が出て気が弱っているんだろうか。
「はい、あーん」
もう抵抗することも疲れて口を開ける。優しいバニラの甘みが口に広がって、冷たさが心地よい。熱で潤む瞳で一ノ瀬さんを見つめると、「タマちゃん可愛い」と撫でてくれた。「早く熱が下がるといいね」と言いながら、また一口アイスを運んでくれる。