変態御曹司の飼い猫はわたしです
「大丈夫だよ。もう何も心配いらない。お願いだから、僕の所に帰ってきて」
「……っ、でもっ、真理亜さんっ」
「真理亜?」
「真理亜さんと一ノ瀬さんの、邪魔、したくないっ」
泣きじゃくる私はうまく言葉が出ない。抱き締められ、少しも緩められない腕の中で、なんとか言葉を紡いだ。
すると通報を終えた真理亜さんの声が背後からした。
「私、変態は好みじゃないの。先日は社長の立場を思ってカフェに出向きましたけど、女性を猫扱いするような男は願い下げです」
「僕もタマちゃんみたいな可愛い女の子が好みかな」
「はいはーい! 俺、真理亜さんの彼氏に立候補したいです!」
佐藤さんがいつの間にか曽根課長を気絶させ、ぐるぐる巻きにしながら元気に立候補している。
(一ノ瀬さんと真理亜さんは……恋人じゃ、ない……)
自分の中で湧き上がる歓喜に驚いた。同時に今の体勢にも気づいて動揺する。まだ一ノ瀬さんの腕の中でキツく抱擁されたままだ。
「い、一ノ瀬さん……はな、は、離してください……」
「無理。離したらタマちゃん逃げるでしょ」
「そ、そんな、こと」
「それにタマちゃんの泣き顔を誰にも晒したくないから。落ち着くまでこのままで」
優しい一ノ瀬さんの声色に、心が落ち着いていく。ゆっくりと私の頭を撫でてくれるので、そこから警察が来るまでの間、私は思う存分泣いたのだった。