変態御曹司の飼い猫はわたしです

 曽根課長は警察に連行されていき、事情聴取を終えた頃には、すっかり夜になっていた。

 もう二度と帰らないつもりで出掛けた家に、数時間ぶりに帰宅する。

「おかえり、タマちゃん」
「ただいま、帰りました……」

 二人で玄関を上がったところで、一ノ瀬さんが私の頭を撫でた。

(やっぱり猫扱いなんだなぁ……)

 真理亜さんとのことは誤解だと判明したけれど、だからといって、私が恋人になれるわけではないのだ。

「なんで、守ってくれたんですか。偶然拾った、私のこと」

 お礼が言いたかったのに、いじけた声になってしまった。撫でられた頭をそのまま下に向け、俯いてしまう。

 すると、一ノ瀬さんが「ふぅ」と息を吐いた。呆れられたのだろうか。

「……偶然じゃないよ。僕がタマちゃんに会ったのは、偶然じゃない。君は覚えていないだろうけど、僕は君を忘れたことはないよ」

「忘れたことは、ない?」

 どういうことだろう? 私と一ノ瀬さんは、前に会ったことがあるの? こんな極上のイケメンに会ったら覚えていそうだけど、記憶にない。

 混乱顔の私を見て、一ノ瀬さんは少し寂しげに笑うと、「長くなるから、リビングでお茶でも飲みながら話そう」と私の手を引いてリビングへ向かった。



 それは、十年前のこと。当時私は高校生。病気の父と、母と私、家族三人でフレンチレストランに行った。

 当時、一ノ瀬さんは大学を卒業したばかり。お父様の事業を継ぐ為、学生時代から色々と準備してきて、本格的に始動したばかりだった。

「父に、まずはあのレストランを上手く経営してみろって任されてね。だけど、全然上手くいかなくて」

 ホテル側との連携はもちろん、従業員の教育、料理の質、取引先との交渉。どれも上手くいかなかったそうだ。
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