変態御曹司の飼い猫はわたしです
そして一ノ瀬さんは、いつか私が訪れるかもしれないと、「三上」という客が来たら知らせるように徹底していたのだそう。
「あの日、君が予約してくれたことを知って、レストランに行ったんだ。だから、偶然じゃない」
「そう、だったんですか……」
一ノ瀬さんは身体を真っ直ぐ私に向き直ると、綺麗な所作で頭を下げた。
「ありがとう。ずっとお礼が言いたかった」
「いえ! 私は何もしていません! あの時も、この前も、美味しくお食事させていただいただけで!」
慌ててそう言うと、一ノ瀬さんは私の手を取った。その大きく温かな手にドキっとする。
「ううん。君の笑顔は僕の指標だ。北極星みたいに、ずっと僕のいくべき道を照らしてくれていた。ありがとう」
「っ!」
思いもよらないことばかりで、胸がいっぱいになった。私のことをずっと覚えてくださったことが嬉しい。そしてなによりも、大好きな人の役に立てていたことが、本当に嬉しかった。
「それだけの、はずだったんだけどね」
「?」
私の手を包む、一ノ瀬さんの力が強くなる。
「君とこうして暮らすうちに、君に惹かれてしまった。いや、君と初めて一緒に食事をした夜から、君を好ましく思っていた。男性が怖いと言っていたし、飼い主だ猫だと誤魔化していたんだけど」
さっきよりも強い眼差しに、心臓が高鳴る。握られた手が熱い。
「タマちゃんのことが、好きなんだ」
「!」
「あいつに何かされたんじゃないかと思った時、気が狂いそうだったよ。薫が止めてくれなきゃ、大暴れするところだった」
「おお、あばれ……」
「君を失いたくない。君の側にずっといる権利がほしい。僕と結婚を前提に付き合ってくれないか?」
信じられない程の嬉しい展開についていけない。一ノ瀬さんが、私を好きだなんて! 結婚? 猫扱いからの突然の昇格に戸惑う。
「だめ?」
整った顔立ちの完璧な男性が、上目遣いでそんな顔! ズルすぎる!
「だっ、だめな、わけ……っ! ないですっ!」
「本当?」
「わ、私だって……一ノ瀬さんの、こと……、好きです……ひゃあ!」
握られた手を引かれ、一ノ瀬さんに抱き締められる。「嬉しい」と耳元で、セクシーな声が響いて、私は失神寸前だ。
「タマちゃん、一生離さないから、覚悟してね」
脳まで響きそうなバリトンボイスで囁かれ、私は卒倒しそうだった。
そして、その夜は、彼の宣言通り離してもらえなかった。