変態御曹司の飼い猫はわたしです
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「一ノ瀬さん、今日は、ありがとうございました」
実家で食事をした後、私たちの家に帰るべく、バス停までの海沿いの道を歩く。
「こちらこそ、お母さんとお父さんにご挨拶させてもらえて、嬉しかったよ。早く結婚しよう」
「ふふッ、一ノ瀬さんのご両親にもご挨拶しないと」
そう言うと、一ノ瀬さんの顔が曇った。
「うーん」
「?」
「タマちゃん、君も一ノ瀬になるんだから、僕のことは名前で呼んで欲しいんだけど?」
「いっ、一ノ瀬さんだって、いつまでも猫扱いじゃないですか!」
「心のうちでは前も今もずっと可愛い女の子扱いしてきたよ?」
「〜〜ッ!」
一ノ瀬さんは、たぶん、自分がとてもかっこいいのを自覚している。そして、私がその甘い眼差しに弱いことも把握されている気がする。
「ほらほら呼んでみて?」
「タマちゃん?」
私ばかり翻弄されて、ちょっと面白くない。不貞腐れる私を見て、彼は立ち止まり私にキスを落とした。
「珠希?」
「……はい、ま、雅人さん」
私の照れた顔は、夕日のお陰で隠せたのではないだろうか。雅人さんがあんまり嬉しそうに笑うから、つい私も笑顔になる。
夕日の見える海を背に、私たちはもう一度、唇を合わせた。