しみ
☆
目を開けて隣りを見ると、彼女はまだ眠っていた。
涙の跡が残る目じりのまま静かに目を閉じていて、ああ、現実なんだと実感させられる。
部屋の隅にまとめられた段ボール箱の山と、オレンジ色のキャリーバッグ。
いつのまに、こんなにも物が増えていたんだろう。彼女とここで過ごした、たった1年のあいだに。
部屋のいたるところにあったはずの思い出は全部箱に詰められて、まるで最初からそうだったみたいにはじっこの方に寄せられて。きっとこうやって彼女のことを忘れていくんだ。
視線をそっと彼女に移すと、窓から漏れる光がまぶしかったのか瞼を少し震わせた。
腕を彼女の方に伸ばして、少しだけ頬に触れてみる。
『いつでもあったかいよね』と言いながら、僕の手を嬉しそうに握り返すいつかの彼女の笑顔が頭に浮かぶ。
そんなことをつい思い出したりして、自分が泣いていい立場じゃないのはわかっているのに胸がつまる。
失う、なんて感覚をまだ知らないからか、いつまでもこの時間が続く気がしてしまう。
彼女がずっととなりにいる、そんな時間が。
いつまでも続くはずだった。それを手放すと決めたのは自分なのに。