しみ


 ふせられた長いまつ毛、柔らかな茶色の髪が白い頬にかかって、ただ寝ているだけなのにこんなにもかわいくていとおしい。


 一緒にいると、待っていると、そう言えなかった過去の自分に対してほんのわずかに嫌気がさす。


 けれど、自信がなかった。離れることを不安に思うのは僕の方だけかもしれないと、彼女を応援するふりして別れを選んだ。


 ただの強がりでしかなかったのに。


 将来の為に留学したいと彼女が言った。彼女の夢は通訳になることだと僕は知っていた。


 けれど、その日がこんなに早く来るとは夢にも思わなかった。


 その動揺を悟られないよう、必死に取り繕った結果がこれだ。


 彼女は僕が別れを告げたあの日、泣きながら静かに「わかった」とひとこと言ったきりだった。


 ただ、旅立つその日の朝までは一緒にいてほしいと、今まで通り過ごしたいと。嫌いになって別れるんじゃないんだからいいでしょって、泣きながら笑うから僕もただ「わかった」と言った。


 毎朝一緒に家を出て、帰りは「おかえり」か「ただいま」を毎日言う。休みの日は一緒に出かけたりして、出かけないで家にいる時も一緒にゲームをしたり隣りにいた。


 別れると決まってからも、ずっと。


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