切なさが加速する前に
カシャ
 と氷とグラスの触れる音。

 あたしはi(アイ)のグラスの水滴を拭った。
「ふうん、でもi(アイ)はすんなり「うん」と言ったのかい?実際は、ああでもない、こうでもないと理由をつけて彼を困らせたんじゃないのかい?」
「なんでもお見通しだね、ママは」
「手を伸ばせばすっと離れてしまう、怖いのだろう?優しが」
「特にさ、それを失う時が来ることが分かっているから・・・」
 と言ったi(アイ)の悲しい横顔をあたしは見ていた。
「ちょっと雪がちらついた夜に恋次郎が言ったことがあるんだ、雪に願うって」
「雪に願う?」
「恋次郎が好きなchiiの曲に、“願い雪”というのがあって、タイトルの意味をchiiに聞いたことがるんだって」
「それで?」
「溶けて消えて無くなる前のその一瞬に、願いを唱えることが出来たなら、願いが叶いそうな・・・そんな気がするからと。だから私、恋次郎なら何を願う?って聞いたんだ」
「ふうん、いつ消えてしまうか分からないi(アイ)に恋次郎は何を願ったんだろう?」
「僕の名を覚えていてくれと言っていたよ。消えてしまう前に残してくれたと思うよ、恋次郎という存在を」

♪ 願い雪

 あたし達はまた、酔いの中に堕ちて行く。
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