切なさが加速する前に
 i(アイ)が一つの町に居られる時間には限界がある、アイは普段、携帯電話の着信音はOFF、バイブもOFFにしていた。全てから逃げていた。

『私のお父ちゃんがさ借金をして返せなくてさ、死んじゃったんだ。私は保証人になっていたから私がお金返さないとならなくなって。だから私、毎月少しづつ返済しているんだよ。だけど借金取りはさ、早く返す方法があると言って追い駆けて来るんだ。早い話が身体で返せってこと。そんなの絶対嫌だから、ケータイの電源は私が必要な時だけ入れるんだよ。返済が一日だって遅れるとケータイをガンガン鳴らして来るから。私が街を転々とするのは振り込み先から居場所が分かってしまうのが怖いんだ』

 夏までまだ時間がある、資格取っておけば他の町へ流れても使えるからと彼が説得した。

“夏まで、あとどのくらい?”

 ふと、そんなフレーズが心をよぎった。

“別れの夏まで、あと、どのくらい?”
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