切なさが加速する前に
『春までに資格が取れれば夏まで仕事できるね』
 i(アイ)は自分に言い聞かせるように言った。
 かなりのハード・スケジュールになるし、学校が終わってから夜のアルバイトまで時間もそんなにない。

『時間がないのもいいさ、余計なこと考えなくていいから』

 朝から学校に行き、夕方に帰宅したら夜の仕事の準備、そして深夜まで働らく。それを毎日繰り返した。i(アイ)はそれを苦しいとは言わなかった。彼も毎日、送迎をした。

 ダイエット施設には週一だけしか通えなくなっていた。

『あと、もう少しだね、実習が始まるよ。実習場所が決まったら連絡するからルート調べてね』

 忙しさに没頭することで何かを忘れようとしている。
 でもそれはi(アイ)だけではない。
 春が近づいていた。
 彼もあのフレーズを忘れようとしていた。

“あと、どのくらい?”

“別れの夏まで、あと、どのくらい?”

カシャ
 氷とグラスの触れる音。

「別れの気配を感じながら過ごすなんて苦しかっただろう?」
「うん、『また明日』という言葉が別れに近づくだけだと知った時、時間は加速するって感じたよ、ママ。学校、介護実習、バイトを繰り返しながら冬が終わったよ」























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