切なさが加速する前に
『今日は店が早く終わりそうだから他の店で歌おうよ。いつもの駐車場で待っていて』

 i(アイ)は彼の頭が冷えた頃を見計らって、メールを打った。
 何事もなかったようなi(アイ)からの一通のメールで恋次郎は崩れてしまった。

 冬はエンジンを切ってガタガタ震えながら待っていた駐車場で、今度は暑さで窓を全開にして待っていた。
 
『久しぶり!と言っても二週間かあ』

 i(アイ)は二週間前と全く変わらない笑顔で路地を駆けて来た。

 車で五分位の場所にある彼の行きつけのスナックに行った。

『ねぇ、恋次郎はあの娘が好きでしょ?私を出汁(だし)にしてここに連れて来たわけだ』
 i(アイ)は平然と“麗”という名前の女の子を指差した。
『やばい、私たちの席に来るぞ』

『恋ちゃん、いらっしゃい、相変わらず可愛い女の子を連れて』

『よろしくう、私は恋次郎が麗ちゃんに会うための出汁(だし)ですう』

 彼は、あたふたして何も言えないでいた。
 i(アイ)はそんな彼を見て、笑いまくっていた。

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