切なさが加速する前に
「何故、俺の傍にいるんだ」
 彼が聞いた。

『あなたもいつも居場所を失くして寂しい顔していたからさ。それにあなたは、優しさだけじゃ生きていけないって知っていたから、私、ちょっと甘えてみせただけ』

 i(アイ)は深夜遅くまでやっているスナックで切ない歌ばかり歌って聞かせた。

『ねぇ、こんな切ない曲が好きだよね、どう私の好みと一緒じゃないの?』

 どの曲も彼が好む切ない曲ばかり選んだ。

『忘れられない時間の果てには何があるのかな?・・・ねぇ、私の地元のお祭りに来る?ねぇ、追いかけて来る?六三〇キロあるよ、私の故郷まで。私が教えた歌、悲しくて歌えなくなっても知らないよ?六三〇キロ、私は北に行くよ』

『ねぇ、追いかけて来る?』

 本気なのか?試しているのか?彼はi(アイ)の目を視た。

 i(アイ)はいつものように目を逸らした。

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