切なさが加速する前に
 i(アイ)の車のヘッドライトが闇を裂くと、彼が浮かんだ。
 動き出したi(アイ)の車は一瞬、止まって、また動き出す。

 車の中のi(アイ)は泣きながら叫んだ。

『何故、来たんだ!』

 i(アイ)は泣いている自分が信じられなかった。いつも強く、どんなに苦しくても前へ踏み出す私が泣くなんてありえないとi(アイ)は自分が分からなくなっていた。

 彼が手を伸ばそうとした刹那、i(アイ)はアクセルを踏んだ。

 i(アイ)の車のドアガラスが降りる。

 彼は彼女の名を呼ぶ。

 i(アイ)の声・・・
 最後に彼の名がエンジン音に千切れて行く。

 i(アイ)の車が加速する。

 車のテールランプは灯らない。
 ただ、遠ざかって逝く。

 夏が来た。
 別れの夏が来た。

 遠くで花火の音が聞こえた。

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