切なさが加速する前に
♪ The way we were・・・
 曲が戻った。

「ねぇ、ママ。彼が私を失くした時にママが作ったカクテル“Lost・・・”を私にも作ってもらえない?」
「あぁ、いいよ」
「私の誕生日にメールをもらったんだ、私を失くした時にママが作ってくれたカクテルが心まで酔わせようとしたって。ジョークのようにごまかそうとしていたけど、マジだったと思うよ」
 ジョークのようにしようとしているのはi(アイ)も同じだろうと言いたい言葉をあたしは飲み込んで、プリマス・ジン、PASSOA、ライムジュース、アンゴスチュラビターズをカウンターに並べた。
 プリマス・ジン、PASSOA、ライムジュースを、それぞれ20ミリをシェイクして氷を詰めたロング・グラスに注いで、トニック・ウォーターでグラスアップし軽くステア、最後にアンゴスチュラビターズを5ダッシュ入れた。 

「Lost・・・だよ」

 i(アイ)は、ケータイでカクテルを撮影していた。

「ママ、この画像を彼に送っていい?」
「あぁ構わないけど、i(アイ)がここにいると」
「私がここにいると分かったら彼はどうするだろう?」
 i(アイ)は視線をあたしに向けた。今度は目を逸らさない。
 i(アイ)は手慣れた操作でケータイから画像を送ったようだ。

「画像だけ送ったよ。文書は全く無し」
「ここへ来るよ、i(アイ)がLost・・・を送ったなら」
 i(アイ)がLost・・・を少し口に含んだ。
「あぁ、シャープ!なんてシャープな切れ味。あぁ、でも、ママ、ふんわりと甘味が広がるよ、美味しいよ、このカクテル」
 i(アイ)はしっかりとあたしの目を見て言った。
「ママ、お願いがるんだ、聞いてもらえないかなあ。お願い」
「あぁ、言ってごらん」

♪ The way we were・・・


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