切なさが加速する前に
♪ The way we were・・・

 ドアが開いてカウベルが鳴った。
 恋次郎が少し息を切らして入って来た。

 誰も居ないカウンター。
 私は今までi(アイ)が座っていたスツールの隣の席を用意した。

「帰ってしまったよ」
「そうか、でも正直なところ、少しホッとしている。彼女がまだ居たら僕はどうしたらいいか分からない、ここへ向かいながら足が止まりそうになったよ」
「i(アイ)がお前にカクテルを一杯奢りたいと」
「アイ?」
「アルファベットのiだと名乗ったよ。お前の前ではホントの名前だったのだろうけど」

 あたしは、プリマス・ジン、PASSOA、ライムジュース、アンゴスチュラビターズをシェーカーに入れてシェイクし、ショット・グラスに注いだ。

「久しぶりだなあ。でも、Lost・・・の材料だけど、グラスも色もいつもと違う」
「材料は同じでもレシピは変えたよ。このカクテルをお前に出す時は、Lost・・・という名前ではなく」
「えっ?なんて?」

「リメンバーと呼んで欲しいとお願いされたんだよ」
「リメンバー・・・」
「お前ならどう訳す?」

「忘れない・・・かな」

「良い言葉だね」

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