切なさが加速する前に
♪ 追憶

『昔、この街に来た時は私の車の中は生活必需品でいっぱいだったけど、今日は空っぽ』
 あたしはi(アイ)の言葉をそのまま伝えた。

 恋次郎は、カクテル・リメンバーに手を伸ばした。
「それは君に帰る場所があるって意味だね」

 恋次郎はいかにも隣に彼女がいるかのように呟いた。
 そして、リメンバーを頭を動かさず、手首を返すだけで飲み干した。
 彼女がグラスをロングからショットに変えて、更に氷も抜いてくれと頼んだ理由が恋次郎にはちゃんと伝わっていた。

♪ 追憶

 ここは、FOOLという名のBAR
 愚か者が静かに酔い潰れるための店。





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