切なさが加速する前に
『何しているの?』
 彼からのメールだった。

『居場所がないから空を視ている』

 とi(アイ)は返信した。友達家族には余計な負担はかけさせたくないと考えていた。だから寝床だけ用意してもらえれば十分。食事は自分で調達すると言ってお昼前にi(アイ)はいつも外に出ていた。
日曜日だった。行くあてもないし、きっちり三食、食べなくてもいい。その日は荷物の詰まった車の中でぼんやりと晴れた空を視ていただけだった。
 彼とはバイト先のスナックで二度ほど席についただけだった。といってもバイトはまだ始めて五日だから彼はもうi(アイ)の客という感じになり始めていた。
 昼食がまだなら何か食べに行こうと言われた。日曜日はバイトも休みだった。お昼はしっかり食べて夕食は抜いてもいいと思った。
 駐車場の近くに迎えに来てもらった。
『ガソリン代ケチって毛布にくるまっていたよ。私の車を見るか?生活必需品揃っているんだ。いつでも好きな時に消えることが出来るように』
 そう言ったi(アイ)の目を彼が見つめていた。本当は荷物だらけの車を彼には見せるつもりなどない。
i(アイ)はすぐに瞳を逸らしていつものように笑った。i(アイ)の瞳に、瞳の奥にどうしようもない絶望があるのを彼に気づかれたような気がした。
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