送り犬さんが見ている
二
林をしばらく進んでいくと、道の勾配が大きくなり木々も増え、より鬱蒼としていく。すっかり森の中へ入ったみたい。
けれど、チラッと後ろを盗み見れば、まだあの男はしっかり付いて来ていた。
余裕綽々の笑顔がちょっと癪に障る。私は早くも息が上がってきているのに。
「フヨさん、そろそろ休憩なさっては?」
「!」
心の声が漏れてたのかしら…。
確かに疲れてきたけど、九郎の言う通りにするのはなんだか嫌で、構わず前だけ向いて進み続ける。
「……お、おかまいなく!
あんたこそどうぞ休んだら!?」
「フヨさんはそんなに急いでどこへ向かっているんです?」
「………話聞いて…!」
休む休まないの話をしていたはずなのに…!
あっけらかんと訊ねる九郎に調子を乱されながらも、私はつとめて淡々と答える。
「…半日歩いた先の、渡瀬(わたらせ)神社です。」
「へえ、そんな遠くまで。
あそこは僕も行ったことがありますよ。景観の良い所ですよね。」
「……。」
なるべく会話を広げまい。私はここから口を噤むことにした。
しかし九郎の弁は一人歩きをやめない。
「わざわざ時間かけて歩くのですから、何か思い入れがあるのでしょうね。前も通(かよ)ったことがあるんですか?」
「………。」
「あそこはお願い事を叶えてくれる神社だそうですよ。眉唾ですけどね。」
「………。」
「フヨさんは何をお願いするんです?
家内安全とかですか?」