送り犬さんが見ている

私は襲い来る感情の波を落ち着けたくて、九郎の着物をギュウッと掴む。
そんな私の背中を、九郎は両手でポンポンと優しく叩いてくれた。

「無事で良かったぁ、フヨさん…。
今日は随分過酷な道を選びましたね。
僕が間に合って良かったでしょ?」

認めざるを得ない。
なんで私の居場所が分かったのかとか、不可解なことは山ほど頭に浮かぶけど、もし九郎がいなかったら私は間違いなく無事では済まなかっただろう。

「………あ、あ、あり、がと…っ。」

何度も何度も頷きながら、彼の胸の中で荒い呼吸を繰り返した。

九郎の顔は見えないけれど、きっとまたにこにこと嬉しそうな顔をしているに違いない。
それを証明するように、九郎は私の体を一層深く抱き締めた。

「…はあ、幸せだ…フヨさんを助けられたばかりか、お礼まで言って貰えるなんて…。」

「……く、苦しい……。」

九郎に包まれると、森と土の匂いがする。
山道散歩で嗅ぎ慣れた匂い。けれど、この人の匂いは少し違う気がした。なんというか、ちょっと懐かしいような…。


その後しばらく私達は岸で抱き合っていたけれど、だんだんと頭が冷静になった私の「離して!」を合図に、その時間もアッサリと終了した。
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