送り犬さんが見ている
毎年の盆と正月に、それぞれ三日ほどいただける休暇日。
他の女中や使用人達は、それぞれの実家へ帰ったり、遠出して有名な温泉地を堪能したりと有意義に過ごすそうなのだけど、私は毎回持て余してしまう。
なぜなら旦那様の言葉通り、私には“実家が無い”からだ。
珍しくもない話。11歳の頃、口減らしにこの村岡屋敷に奉公に出されて、そのまま両親は住まいを変えてしまった。
私は手先が器用だったり、物覚えも良かったりして、女中として問題ない働きが出来た。その甲斐もあって、15歳になった今でも、変わらずこのお屋敷に置いてもらえているのだ。
私としても、ここを追い出されたら行く宛てが無くなってしまう。
だから仕事をさせてもらえるのはありがたい。
でも…、
私は正直なところ、この場所に居るのがすごく嫌だった。
ここは、人と人の関係が希薄だ。お互い深くは立ち入らないし、上下関係もはっきりしている。
私は年齢的に未だに下っ端のまま。気の置ける相談相手もいない。
だから時々、ひどく孤独な気持ちになってしまう。