送り犬さんが見ている

ぞわり、と。
今まで経験したことのない悪寒を感じた。
その理由は追い剥ぎに馬乗りされているからでも、殺されそうになっているからでもない。

視線を九郎へと戻せば、彼の大きく見開かれた真っ黒な目が、射殺さんばかりにこちらを凝視していた。

「く、九郎……?」

様子がおかしい。
九郎の体がぐずぐずと萎(しぼ)んだり、盛り上がったりして見える。確かに人間の姿をしていたものが、形を次々変化させていく。

異変に気づいた追い剥ぎが、九郎の方を向き、そして顔を青ざめる。

「…な、なんだ、化け物か…っ!?」

九郎の体はなおも盛り上がり、肥大していく。
下半身はその場に立ち尽くす人間の脚。しかし上半身は、

ーーー犬……?

真っ黒な体毛の、目を見開き牙を剥く、山のように大きな体の…犬だ。

犬の顔は、私の上の追い剥ぎに狙いを定めると、口を大きく開いた。
そして、

「ーーーぎゃっ」

追い剥ぎが悲鳴を上げる間もなく、その大きな口で呆気なく、一飲みにしてしまった。

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