送り犬さんが見ている
だけど今度は、九郎が心を閉ざす番だった。
その顔から笑みがすっかり消え去る。苦しげに眉を寄せて下を向いてしまった。
「……いいえ、もう終わりです。
貴女にこんな姿を見せるつもりなかった。
こんな惨めな僕を、フヨさんが受け入れてくれるはずがない…。」
「そ、そんなの……っ。」
一人で決めつけないで。そう言いたかったけれど、直後の九郎の体の変化に気を取られてしまった。
人の形が崩れていく。
またさっきのような歪みが起こって、九郎は真っ黒な体に変わっていく。
四つ足に、長い尻尾に、ぎょろりとしたふたつの黒い目玉。彼の本当の姿だという、送り犬の姿に変わっていった。
犬はじりっと後ずさると、私の姿を目に焼き付ける。
「……っ、ま、待っ…!」
それを最後に、犬は大きな体を翻して、深い森の奥へと走り去ってしまった。
私は声を上げる。その逃げ去る姿に手を伸ばして、這いずるように後を追おうとする。
「…まっ、待ってよ!九郎!
行かないで…っ!!」
けれど、もう九郎の姿はどこにもない。
走り去る音も今や聞こえず、耳鳴りがしそうな静寂が耳を刺す。木々のざわめきも鳥の鳴き声も何も聞こえない。