送り犬さんが見ている
私はじりじりと忠光様から距離を取る。
けれどそれに気づいた彼は、急に距離を詰め、そのまま私を畳へ押し倒した。
「…きゃっ!」
そして鞘から刀を抜き、私の頬にぴったりと当ててくる。「声を上げるな」という意図だ。
私に覆い被さり、忠光様は大きく見開いた目で私をじろじろと見る。顔、首、体の至る所。
「寂しかったぞ、フヨ。お前は休暇中一度もおれに挨拶に来なんだ。屋敷の中にいるのに。なぜだろうな?」
忠光様の目が、私の手元に注がれる。襦袢の合わせ目を強く押さえる私の手を。
「おれはこうして、お前の閨(ねや)に足を運んでやってるのに。お前が寂しくないように添い寝をしてやろうと思ってな。」
「……ヒッ!!」
忠光様は刀を離すと、その無骨な右手で私の両手を掴み上げ、そのまま畳へ縫い付けた。
そして彼の左手は、無防備になった私の襦袢へ伸びる。
「……っ!!」
忠光様の手が襦袢の中へ忍び込み、私の胸に触れた。
そうなってしまっては、私はもう身動きひとつできなくなってしまう。
声も出ない。体も石のように強張って、頭が真っ白になってしまうのだ。
「フヨ、また大きくなったな。おれが触ってやってるからか?」
耳元で嫌な囁きが聞こえる。
吐き気を催す。
「………っ。」
“いつも”だ。私がこの屋敷へ奉公に来てから4年間ずっと、忠光様は私の寝込みに現れた。
私が恐怖で声を上げられないのをいいことに、私の体の至る所を触って、撫でて、辱める。
武士の不貞は重罪だ。だから姦通はせず、その直前までの行為を何度も何度も繰り返す。
逃げたい。どこか違う場所へ行きたい。
誰か助けて。
そう願って、私は何度あの神社へお参りに行っただろう。
いっそ舌を噛んでしまえたら、どんなに楽か。強く瞑った目の隙間から、涙がとめどなく溢れてくる。
「………っ、くろう……!」