ロマンスに道連れ
ソファに戻った彼女は体育ジャージを手に取ってその場で履こうとする。反射的に視線を逸らせば浦野はそんな俺を見て笑っていた。もちろん逸らした間に先輩はお構いなしにズボンを履き終えていた。
「吉野、お前も男の子だな」
「普通にこの人頭悪くないですか?男の前で着替えます?」
「スカートの中見えるわけじゃないからよくない?あ、もしかして璃月クン見えちゃうと思った?かっわいい~」
「……先生、妹の教育はしっかりしてください」
「はは、広瀬はこういう子」
「では、璃月と一緒に教室帰りまーす」
「お大事に、吉野はサボらないように」
「またきまーす」
ズボンを履いた先輩に背中を押されるまま保健室を出る。
廊下は本当に日差しが入ってきていたので、何となく先輩を壁側に追いやって窓側を俺が歩くことにした。何も言わずにやった行動を見て、センパイはちょっとうれしそうに口角を上げていた。
「浦野が好きなんすね」
「あれ、バレた」
「わかりやすすぎて引きました」
「そこは恋する女の子って可愛いですねって言うとこ」
「不毛だなあって」
「わかってるってば」
セーターを羽織るほどの寒さはなくても、この人にはセーターもズボンも必要らしい。冬みたいな恰好をしている彼女は、今の季節に不釣り合いだ。
「どう、こんな私のこと好きになれそう?」
「なれなそう」
「やる気ないなあ」
「ノリノリのほうがきもくないすか?」
「でも、意識はしてくれてるもんね?」
「ポジティブっすね」
3年フロアは職員室や保健室のある本校舎で、1年フロアは校庭を挟んで反対側にある。
通り道だからそのまま上ろ、なんて意味の分からないこじつけで階段を3階まで上らされている。
「センパイはどうしたいんですか」
「どうしたいって?」
「浦野に好きになってもらいたいの?」
「うーん、それはむりだからな」
「じゃあ諦めたいんですか?」
「うーん、そうなのかな?」
「いや、俺がわかると思いますか」
「まあ、璃月がわたしのこと好きになってくれたら諦めよっかな」
「じゃあ一生不毛っすね」
「璃月を落とせなきゃ何も始まらないってことか」
「頑張ってください、落ちる気ないけど」
「落ちる気ないとこで落ちるのが恋だからなあ」
「へえ、めんど」