爪先からムスク、指先からフィトンチッド
薫樹の恋人なのでうかつなことはできないが、まだ結婚してないしなと気楽に芳香にちょっかいを出してみようと考えている。
美味しそうにミントティーを飲んでいる二人を尻目に涼介はリビングの隅の紙袋から、ミントの葉が覗いているのが見えた。
「ん? ミント?」
近寄って袋を覗くとやはり大量のミントが入っている。
「あ、それ、私のお店の……」
「ふーん。お店でミント扱ってるの?」
「え、ええ。園芸店に勤務してますので」
「見ていい?」
「ええ、ああ、でもそれちょっと商品にするには今一つなのでもらったものだから」
ミントを袋から出し涼介は長いムエット(試香紙)を嗅ぐように、ミントから少し距離をとり、高く筋の綺麗に通った鼻先で香りを吸い込んでいる。
「いいスペアミントだ。香りが強いし元気だね」
「そうですか」
店のミントが褒められて芳香は嬉しかった。
ミントティーを飲み終えた薫樹が「ご馳走様。とても美味しかったよ。これならお客もたくさんくるだろうね」と涼介に話しかける。
「お客?」
芳香が首をかしげていると薫樹が説明を始める。
「今度、彼はミント専門のカフェをプロデュースするんだよ。うちの会社には今開発中のメンズボディーローションの調香に来てくれている」
「へー、多忙極まりないですねえ」
にっこり笑って涼介は「疲労もミントでばっちりリフレッシュですよ」とウィンクしながらまるでタレントのように決めていた。
「は、はあ、すごいですね」
「フフ、僕も最近香りの効果というものを実感したばっかりだ。清水君は造詣が深いね」
「いやあ、匂宮さまにそういわれると――。俺はミントだけですからね」
同じ調香師ではあるが少し専門が違う二人は互いを敵視することもなく認め合っているようだ。
芳香は男同士は爽やかなものだなあと甘くて爽やかなミントティーを味わっていた。
3 カフェ『ミンテ』
ミント王子のおかげですっきりと爽やかに薫樹と過ごしてまた新しい一週間を迎える。
今月は薫樹の出張と開発の追い込みによってあまり会える時間がないので芳香はつまらない気分で町をうろうろしている。
親友の真菜も結婚式に向けて忙しい様で、あまり邪魔もできない。
一人でいることに慣れていたはずなのに、このところ濃密な人間関係を形成するようになってから、誰かと過ごす時間の楽しさを芳香は知ってしまっていた。
美味しそうにミントティーを飲んでいる二人を尻目に涼介はリビングの隅の紙袋から、ミントの葉が覗いているのが見えた。
「ん? ミント?」
近寄って袋を覗くとやはり大量のミントが入っている。
「あ、それ、私のお店の……」
「ふーん。お店でミント扱ってるの?」
「え、ええ。園芸店に勤務してますので」
「見ていい?」
「ええ、ああ、でもそれちょっと商品にするには今一つなのでもらったものだから」
ミントを袋から出し涼介は長いムエット(試香紙)を嗅ぐように、ミントから少し距離をとり、高く筋の綺麗に通った鼻先で香りを吸い込んでいる。
「いいスペアミントだ。香りが強いし元気だね」
「そうですか」
店のミントが褒められて芳香は嬉しかった。
ミントティーを飲み終えた薫樹が「ご馳走様。とても美味しかったよ。これならお客もたくさんくるだろうね」と涼介に話しかける。
「お客?」
芳香が首をかしげていると薫樹が説明を始める。
「今度、彼はミント専門のカフェをプロデュースするんだよ。うちの会社には今開発中のメンズボディーローションの調香に来てくれている」
「へー、多忙極まりないですねえ」
にっこり笑って涼介は「疲労もミントでばっちりリフレッシュですよ」とウィンクしながらまるでタレントのように決めていた。
「は、はあ、すごいですね」
「フフ、僕も最近香りの効果というものを実感したばっかりだ。清水君は造詣が深いね」
「いやあ、匂宮さまにそういわれると――。俺はミントだけですからね」
同じ調香師ではあるが少し専門が違う二人は互いを敵視することもなく認め合っているようだ。
芳香は男同士は爽やかなものだなあと甘くて爽やかなミントティーを味わっていた。
3 カフェ『ミンテ』
ミント王子のおかげですっきりと爽やかに薫樹と過ごしてまた新しい一週間を迎える。
今月は薫樹の出張と開発の追い込みによってあまり会える時間がないので芳香はつまらない気分で町をうろうろしている。
親友の真菜も結婚式に向けて忙しい様で、あまり邪魔もできない。
一人でいることに慣れていたはずなのに、このところ濃密な人間関係を形成するようになってから、誰かと過ごす時間の楽しさを芳香は知ってしまっていた。