爪先からムスク、指先からフィトンチッド
試作品とはいえ調香した香水は役員他、一般社員にも試香されたが高評価で変更はないだろう。出来栄えの良さに社長は海外進出がもう成功したような顔をしている。
「すみません。よろしでしょうか」
「なんだね、兵部君」
「この『KOMACHI=小町』ですが名称を変えていただきたい」
「ええ? 何を言い出すんだね」
ざわめく中で薫樹は澄んだ声で続ける。
「小町という商品名では、外国の方々には少しマニアックでしょう。いっそのこと『TAMAKI』にしてみては」
薫樹の発言で更に騒めくが、半分以上はその提案の方がよさそうだと頷いているものもいる。
「確かにTAKAKIさんの知名度は海外で高いからなあ」
「小野小町が世界三大美女って言ってるの日本だけらしいし……」
この議題はまた会議にかけられることになったが、おそらく薫樹の提案が通るであろう。
会社を出て、薫樹は芳香の勤める園芸ショップ『グリーンガーデン』に向かう。
スーパーの駐車場が見え、ショップの店先で甲斐甲斐しく、植物に水をやっている芳香の姿が見えた。
しばらく遠目から様子をうかがう。
やってくる客に愛想よく笑いかけ丁寧に接客をし、深々と頭を下げている。
生き生きと瑞々しく働く彼女の様子を見ると、ここしばらくの疲労が消えていく気がしている。
「芳香の魅力は香りだけではないな」
そばで彼女の香りを嗅がずとも彼女の存在は薫樹にとって安らぎを与える。30分ほど眺めて薫樹は芳香に会わずに帰る。こうしたことを何度か繰り返していることを芳香は知らない。薫樹の秘かな楽しみであった。
香水が完成して名前も『TAMAKI』となった。日本人名のつけられた香水は数少ないが、この『TAMAKI』は今世紀で一番有名なものになるだろうと会社は睨んでいる。
芳香の友人の真菜は会社のパーティで薫樹と環が抜けだし、そして香水の名前が変わったことに不安を感じている。
昼休みに少しでも芳香に会って顔を見ようかと思い玄関に向かうと薫樹とすれ違った。
「やあ、立花さん」
「兵部さん――」
機嫌よく立ち去ろうとする薫樹に思わず真菜は声を掛ける。
「あの、すみません、ちょっといいですか?」
「ん? なんだい?」
「なんで香水の名前変えたんですか?」
「コンセプトと完成した香りが環だったからね。小町より売れるとおもう」
「えーっと、そうではなくてぇ」
「ん?」
「すみません。よろしでしょうか」
「なんだね、兵部君」
「この『KOMACHI=小町』ですが名称を変えていただきたい」
「ええ? 何を言い出すんだね」
ざわめく中で薫樹は澄んだ声で続ける。
「小町という商品名では、外国の方々には少しマニアックでしょう。いっそのこと『TAMAKI』にしてみては」
薫樹の発言で更に騒めくが、半分以上はその提案の方がよさそうだと頷いているものもいる。
「確かにTAKAKIさんの知名度は海外で高いからなあ」
「小野小町が世界三大美女って言ってるの日本だけらしいし……」
この議題はまた会議にかけられることになったが、おそらく薫樹の提案が通るであろう。
会社を出て、薫樹は芳香の勤める園芸ショップ『グリーンガーデン』に向かう。
スーパーの駐車場が見え、ショップの店先で甲斐甲斐しく、植物に水をやっている芳香の姿が見えた。
しばらく遠目から様子をうかがう。
やってくる客に愛想よく笑いかけ丁寧に接客をし、深々と頭を下げている。
生き生きと瑞々しく働く彼女の様子を見ると、ここしばらくの疲労が消えていく気がしている。
「芳香の魅力は香りだけではないな」
そばで彼女の香りを嗅がずとも彼女の存在は薫樹にとって安らぎを与える。30分ほど眺めて薫樹は芳香に会わずに帰る。こうしたことを何度か繰り返していることを芳香は知らない。薫樹の秘かな楽しみであった。
香水が完成して名前も『TAMAKI』となった。日本人名のつけられた香水は数少ないが、この『TAMAKI』は今世紀で一番有名なものになるだろうと会社は睨んでいる。
芳香の友人の真菜は会社のパーティで薫樹と環が抜けだし、そして香水の名前が変わったことに不安を感じている。
昼休みに少しでも芳香に会って顔を見ようかと思い玄関に向かうと薫樹とすれ違った。
「やあ、立花さん」
「兵部さん――」
機嫌よく立ち去ろうとする薫樹に思わず真菜は声を掛ける。
「あの、すみません、ちょっといいですか?」
「ん? なんだい?」
「なんで香水の名前変えたんですか?」
「コンセプトと完成した香りが環だったからね。小町より売れるとおもう」
「えーっと、そうではなくてぇ」
「ん?」