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涙の陽向の卒業式から2ヶ月経ち、春。私は高校2年生になった。


 陽向は卒業式の翌日には一人暮らしをするマンションに入居し、先日大学の入学式を迎えた。スーツを着た陽向の姿を写した画像が送られてきた時、かっこ良すぎて画面割れるかと思った。即保存したけれど、同時に先にどんどん大人っぽくなっていく陽向の姿に若干の寂しさも覚えた。

 
 大学生になった陽向は何だか忙しそうだ。


 授業もあるし、居酒屋でアルバイトも始めたし、学校の友達に誘われてサッカーサークルにも入る事にしたみたい。


 慣れない生活の中で頑張っている陽向の邪魔だけはしないようにしなくちゃ。
 陽向はもう大学生なんだから、高校生の時みたいにLINEにすぐ返事がない事位で落ち込んでちゃダメだ。


 そう自分に言い聞かせた。


 だけど、いつになっても既読にすらならない。返事は忘れた頃にしか返ってこない。


 ねぇ、陽向。陽向の心に私はまだいる?
 ねぇ、陽向。遠距離恋愛頑張るって決めたのに、子どもな私はもう辛くなってきちゃったよ。
 ねぇ、陽向。会いたいよ。


 陽向は、帰省するはずだったGWに帰って来られなくなった。バイト先の居酒屋が人手不足で、お休みが取れなかったらしい。
 寂しいけど仕方ないよね。


 そうやって物分かりの良い子のフリをしていたけど、会えなくなった落胆と待ってもなかなか来ない連絡に、毎日泣いた。


 私、遠距離恋愛を甘く考えていたのかもしれない。恋愛初心者の私にいきなり遠距離恋愛はハードルが高かったのかもしれない。そんな想いと陽向を好きな気持ちがせめぎあって苦しい。


 そんな悶々とした日々を繰り返していたら、珍しく陽向の方からあるメッセージがきた。


 それは、夏休みは絶対休みをもぎ取って帰省するから、私がかねてから行きたいって言っていた、イルカショーが有名な県でも人気のデートスポットの水族館に行こう!っていうお誘いだった。


 良かった。陽向の心の中に私はまだ居るみたいだ。


 陽向が提示してくれた日にちに了承の返事をして、手帳のその日は可愛いシールとか貼ってみたりした。
 早く陽向に会いたいな。楽しみだな。


 約束の水族館デートの日。この日の為に買ったワンピースを着用し、少しメイクもして待ち合わせ場所の駅に向かった。
 


 だけどこの日、陽向は待ち合わせ場所に来なかった。何時間待っても現れない、何度電話しても繋がらない。
 まさか事故にでも遇った?!なんて気が気じゃなくて、ひたすら陽向の無事を願った。


 そして待ち合わせの時間から5時間が経った頃、待ちぼうけを食らっている私にやっと陽向から着信があった。


「もしもし?!陽向?無事?」
「ごめん、風花!俺昨日サッカー部の時の連中とオールしちゃって、目覚ましに気付かなくて今起きた。本当にごめん、埋め合わせしたいから日にち変更して欲しい」


 オール。大学生になって陽向が使うようになった言葉だ。


 気付いていたけど、気付かないフリをずっとしていただけかもしれない。
 私と陽向はもう同じ温度で、同じ世界を見ていない。


「いらない」
「え?風花、怒ってるよな?マジでごめん!」

「怒ってるとかじゃないよ陽向。私達、別れよう。私、もう、辛い……」



 泣きながら別れを告げたその日、私達の淡い恋愛は終わった。

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