if
陽向と別れてしばらく経ってから、陽向から頻繁にメッセージがくるようになった。


 内容は『会って話し合いたい』とか『俺はまだ風花が好き』とか、そんな感じの。
 なんて返事して良いのか分からなくて返信してなかったけど、陽向をブロックする気にもまだなれなかった。


 そんな風にのらりくらりと過ごしながら季節は巡り、秋。
 私の17歳の誕生日が近付いてきた。


 そして、陽向からのメッセージ。
『どうしても風花の誕生日を祝いたい。10月の第3日曜日、11時。あの水族館で待ってる。風花が来ても来なくたってずっと待ってる』


 ズルいなぁ陽向。こういう書き方をしたら私が来るって分かってるはずなのに。


 だけど、あの日電話だけで別れを告げたのは私も後悔しているし、ちゃんと前を向く為にも、直接会ってサヨナラをしよう。


 10月の第3日曜日。悲しい位に澄み渡った青空。約束の11時から少し遅れて水族館に到着すると、陽向は既に入口で待っていた。


「久しぶり」
「うん、久しぶり、陽向」
「今日は来てくれてありがとう。あの日は本当にごめん」
「もういいよ、終わった事だから。それより、最後に楽しもう?ね?」
「……。分かった。あ、チケットはもう買ってあるんだ。このまま入ろう?」
「ありがとう、チケット代払うね」
 私が財布を出そうとしたら、その手を制された。
「チケット代はこの前のお詫びとして受け取って」
「え、でも」
「お願い」

 陽向の懇願するような目に負けて最後に甘える事とした。

「ありがとう。じゃあ、入ろうか」


 最初は少しだけ気まずかった会話も水槽の中を自由自在に動き回る魚や生き物たちを見ていると、段々と弾み出す。


 だけど、目の前に陽向がいるのに、付き合っていた頃のようなときめきは、もう無い。


 うん、私ちゃんと陽向の事を想い出に出来ている。ちゃんと陽向の事を過去に出来ている。


 クラゲの水槽を見ながら、私はその事にひどく安心した。


 メインのイルカショーも見たし、そろそろお別れの時間。
 陽向は駅まで送る、と言ってくれたけど、私はそれを断った。


「じゃあ、陽向元気で。高校教師の夢、絶対叶えてね。次の彼女は大事にしてあげてね、なんて余計なおせっかいか。今までありがとう、バイバイ」


 私は最後、陽向に笑顔を向け、そのまま振り返らずにその場を去った。


 陽向、大好きだったよ。だけど、さようなら。


 帰り道に少しだけ雨に打たれた。陽向と付き合っていた時は、陽向のサッカーをしている姿が見られない雨の日は嫌いだったけれど、今は雨も嫌いじゃないと思える。


 まるで私の門出を祝ってくれる祝福の雨みたいだ。
 私は笑顔で少し出来た水たまりに飛び込んだ。



 

 
< 3 / 6 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop