if
卒業式の次の日には契約したマンションへ入居した。風花は見送りに来たがったけど、いくら県を超えると言っても特急電車に乗って2時間の距離で見送りに来て貰うのも何だか大袈裟な気がしたし、また直ぐに会えるからと言って断った。


 そしてあっという間に入学式。初めて着るスーツに少し背筋が伸びる。


 来週からは履修登録した授業も始まるし、バイトもしたいし、忙しくなるな。
 

 大学生の期間は人生の夏休みっていうけど、本当か?


 バイトを始めて、学部で出来た友達の誘いでサッカーサークルにも入って、授業受けてって忙しくしてたら、時間なんて瞬く間に過ぎ去っていく。


 すぐに過ぎていくから人生の夏休みなのか?けど、せっかく夢を持って入学したんだから全ての事に全力で取り組みたい。


 そんな感じに大学生活を夢中で満喫していたら、いつの間にか風花の事が疎かになっている事に気付いた。
 風花が我儘を言わない性格なのをいいことに少し調子、乗り過ぎだな。


 GW帰省した時は風花と目一杯楽しい事をして遊ぼう。最近、連絡もまともに返信出来てないから、沢山近況を話そう。そう心に決めていたのに、バイト先の居酒屋のGWのシフトを見て驚いた。


 休みが、ない。店長に抗議と相談をしに行ったけれど「ごめん高村君、どうしても人が集まらなくて。お願い、GW出勤して?お願い!」


 俺がバイトを始めたのは時給の良い居酒屋で、俺はオープニングスタッフとして入ったのだが同じ時期にバイトを始めたその他の人はすぐに辞めてしまったり、求人の募集を出してもなかなか人が集まらなかったりで、ここ最近ずっとこの居酒屋は人手不足だ。


 人がいないなら仕方ない。「分かりました、出勤します」「ありがとう高村君、恩に着るよ」自分の父親くらいの年齢の店長にあそこまで頭下げられて断れる程、俺は強心臓ではなかった。



 その日、風花に『ごめん、GWバイト先の人手が足りなくて帰れなくなった』って風花が寝ているであろう時間帯にメッセージを送ると、次の日の朝に『そっかぁ。残念だけど仕方ないね。楽しみは次に取っておくね』と何とも健気な返事が来ていた。


風花のこういう物分かりの良いところには本当に助かっているし、こういう風花だからこそ好きだなとも思う。
 遠距離恋愛って最初は大丈夫かな?って思っていたけど杞憂だったみたい。風花となら乗り越えていけるって信じられる。
 

 バイト、サークル、授業、時々風花。そんな感じで俺の生活は充実していた。



 あっという間に夏。相変わらずバイトにサークルにと明け暮れているけれど、夏の帰省の為の日程は確保した。
 風花にメッセージを送る。


 『俺が帰った時、風花が行きたがってた水族館行かない?』
 『え?!いいの?』
 『勿論。8月○日の10時に○駅で待ち合わせな!』
 『分かった。楽しみにしてる!』
 『俺も』

 そうして久々に地元へ帰って来たんだけど、俺が帰って来ている事がどうやら元サッカー部の連中に知れ渡っているらしい。連日、遊びの誘いがくる。


 風花と約束している前日も高校の友達から連絡が来て、昼間からボーリングにダーツ、カラオケと遊び倒した。


 始発で実家に帰って来たけど、後数時間後には風花との待ち合わせの為に家を出なくちゃ。シャワーを浴びてベッドに寝転びながらスマホを触っていたら、連日の遊び疲れが出たのか、そのまま眠りこけてしまった。



 ハッと目覚めて時計を確認する。そこに表示されている時刻は15時。



 うわ、やらかした!風花からの沢山の着信履歴とメッセージ。やばい、と思い、慌てて風花に電話をかける。


 「もしもし?!陽向?無事?」
「ごめん、風花!俺昨日サッカー部の時の連中とオールしちゃって、目覚ましに気付かなくて今起きた。本当にごめん、埋め合わせしたいから日にち変更して欲しい」


 オール。大学生になって俺がよく使うようになった慣れ親しんだ言葉だ。




 「いらない」
「え?風花、怒ってるよな?マジでごめん!」


 誤り倒したら許してくれるだろう。そう甘く考えていた俺に対し、風花は「怒ってるとかじゃないよ陽向。私達、別れよう。私、もう、辛い……」と、苦しそうに泣きながら言ってきた。


 ちょっと待ってくれよ、と引き留めようとする俺の言葉を遮るように風花は電話を切った。


 何回かけ直しても応答してくれない。
 その日、俺達の淡い恋愛はあっさりと終わってしまった。
< 5 / 6 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop