大嫌いの先にあるもの【番外編】
もしも
「過去に戻れたら面白いと思いませんか?」
閉店後のBlue&Devilでジントニックを飲みながら宮本さんが言った。
カウンターには黒須と私がいる。
黒須が考えるようにウィスキーの入ったグラスを見つめた。
鼻筋の通った横顔がどこか憂いを帯びている。
「僕は今がいいな」
黒須が隣に座る私に視線を向けて微笑んだ。
なぜか物凄くほっとした。
「ふーん、オーナーは今、幸せって事なんですね。春音ちゃんは?」
黒須の方を向いていた宮本さんがこっちを見た。
「私は……」
ふと思った。
過去に戻れるとしたら美香ちゃんがいた頃に戻りたいと。
今の記憶のまま過去に行く事が出来たら、美香ちゃんを助けられるかもしれない。
美香ちゃんと最後に電話で話したあの日、ジャニスさんに会うなと忠告が出来たら、美香ちゃんがジャニスさんから懐中時計を預かる事を阻止出来て、ギャングに狙われる事もなかったかもしれない。
美香ちゃんが生きているもう一つの未来を見る事が出来たかもしれない。
でも、それは同時に……。
「春音、難しい顔してどうした?」
黒須がつんって長い人差し指で私の眉間に触れた。
「別に。ちょっと考えちゃったの」
「春音ちゃん、戻りたい過去があったの?」
宮本さんが意外そうな顔をした。
「春音、そうなのか?」
黒須が心配そうな顔をした。
「えっ、ないよ。私も今が幸せだもん」
慌てて美香ちゃんの事を頭から追い出した。
美香ちゃんには生きていてもらいたいけど、でも、黒須と今の関係でいられないのはやっぱり無理だ。
閉店後のBlue&Devilでジントニックを飲みながら宮本さんが言った。
カウンターには黒須と私がいる。
黒須が考えるようにウィスキーの入ったグラスを見つめた。
鼻筋の通った横顔がどこか憂いを帯びている。
「僕は今がいいな」
黒須が隣に座る私に視線を向けて微笑んだ。
なぜか物凄くほっとした。
「ふーん、オーナーは今、幸せって事なんですね。春音ちゃんは?」
黒須の方を向いていた宮本さんがこっちを見た。
「私は……」
ふと思った。
過去に戻れるとしたら美香ちゃんがいた頃に戻りたいと。
今の記憶のまま過去に行く事が出来たら、美香ちゃんを助けられるかもしれない。
美香ちゃんと最後に電話で話したあの日、ジャニスさんに会うなと忠告が出来たら、美香ちゃんがジャニスさんから懐中時計を預かる事を阻止出来て、ギャングに狙われる事もなかったかもしれない。
美香ちゃんが生きているもう一つの未来を見る事が出来たかもしれない。
でも、それは同時に……。
「春音、難しい顔してどうした?」
黒須がつんって長い人差し指で私の眉間に触れた。
「別に。ちょっと考えちゃったの」
「春音ちゃん、戻りたい過去があったの?」
宮本さんが意外そうな顔をした。
「春音、そうなのか?」
黒須が心配そうな顔をした。
「えっ、ないよ。私も今が幸せだもん」
慌てて美香ちゃんの事を頭から追い出した。
美香ちゃんには生きていてもらいたいけど、でも、黒須と今の関係でいられないのはやっぱり無理だ。
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