大嫌いの先にあるもの【番外編】
三人で飲んでいたら相沢さんもやって来て、黒須の隣に座った。宮本さんが相沢さんにも過去に戻れたらどうするかって聞いた。

相沢さんは考えるように腕を組んで、それから――

「今度は好きな女性に迷わずに気持ちを伝えるでしょうね」

と言った。

相沢さんの答えが意外過ぎる。

「相沢、そんな女性いたのか?」

黒須がびっくりしたように相沢さんを見た。

「いましたよ」
「僕の知っている女性か?」
「そうですね。黒須の知っている女性ですよ。しかも黒須のせいでその女性に気持ちを伝えそびれましたから」

恨めしそうに相沢さんが眼鏡の奥の瞳を細めて黒須を見た。

「それ本当か?誰だよ」
「秘密です。宮本君、カシスオレンジ」

相沢さんがカウンターの中の宮本さんに視線を向けた。

「教えろよ。相沢」
「嫌ですよ。絶対に」
「そんな事言わずに言えよ」
「絶対に言いませんから」
「隠されるとますます気になるだろ」
「どうぞ気になって下さい」
「何があっても言わないつもりか?」
「さっきからそう言っていますが」
「頑固者」
「その言葉そのまま黒須にお返しします」

2人のやり取りが可笑しくてつい、笑ってしまう。
相変わらず黒須と相沢さんは同級生の男の子がじゃれ合っているみたい。本当、仲良しだな。

「過去と言えばそんな映画を最近見ました」

相沢さんが誤魔化すように話題を変えた。
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