大嫌いの先にあるもの【番外編】
「『アバウト・タイム』いい映画でした」

相沢さんが口にした映画のタイトルに嬉しくなる。

「私もその映画大好きです!2013年に製作されたイギリス映画ですよね」

相沢さんが頷いた。

「過去に行く話なのか?」

黒須が私に視線を向けた。

「うん。21歳になると過去にタイムスリップする能力が使えるようになってね。それで主人公のティムがこうしたかった過去に何度も戻って過去を変えようとするの。でね、最後は日常の愛しさに気づくって言うか」

「春音、それ以上はダメ」

黒須の長い人差し指が話を遮るように私の唇の真ん中に当たった。

「これから観る人間にネタばれはしないでもらいたい」
「黒須観るの?」
「春音が好きな映画なら観たいじゃないか」

柔らかな光に包まれた黒い瞳が私を好きだと伝えてくるようで、胸がキュンとする。

「それはどうも」

照れくさくて、目の前のカクテルに視線を落とした。
宮本さんが今夜、私のために作ってくれたのはブラックベルベット。黒ビールとシャンパンを同量で割ったカクテルだ。

フルートグラスの中の液体は黒と紫の中間のような色で、出された時は大人っぽい色だと思ったのに、今はなぜか不吉な色合いに見えた。

どうしてか胸騒ぎもする。
黒須の隣にいられて幸せなのに。

お酒に酔ったのかな。
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