大嫌いの先にあるもの【番外編】
目の前にいるのは私の愛した黒須だったんだ。

今すぐにでも抱き合いたい。
でも、ダメ。

「離して!」
ベスト越しの胸を強く押して、黒須の腕から抜け出した。

「春音……」
「ダメだよ。黒須。この世界で私たちは愛し合ったらいけないんだよ」
「どうしてだ?」
「だって美香ちゃんと結婚してるでしょ。美香ちゃんの事を愛しているんでしょ?」
「わからない。美香とは離れていても平気だが、春音とは平気じゃないんだ」
「そんな事言わないで」
「春音、愛しているんだ。この気持ちにはもう抗えない。君と結ばれる事が許されないのなら、僕は生きていたって仕方ないんだ。このままギャングに殺される事を願ってさえいるんだよ」
「だから懐中時計を持っているの?」

肯定するように形のいい唇が笑みを浮かべた。
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