大嫌いの先にあるもの【番外編】

おまけ【Side 黒須】

「いらっしゃいませ」

春音のバイト先のDVD店に入ると、明るい声で出迎えられた。
レジカウンターに春音はいない。

いたのは小柄で優しそうな中年の女性だ。前に会員証を作った時に対応してもらった気がする。

名札を見ると『滝本』と書いてある。

春音がいつも話している滝本さんか。
恋愛ドラマが好きで、お子さんが2人いるって聞いたな。

「あの」
声をかけると、なぜか滝本さんが驚いたような表情を浮かべた。
驚かれるような声の掛け方をしてしまったんだろうか。

「あなたは……前に来たイケメン」
滝本さんが胸を手にあて、夢見るような表情で見てくる。
春音から滝本さんの話をよく聞くが、春音が言っていた通り面白そうな人だな。

「イケメンって僕の事ですか?」
「あ、いえ。失礼しました。何でもないんです。いらっしゃいませ」
切り替えるように営業スマイルを滝本さんが浮かべた。

「あの、聞きたい事があるんですが」
「なんでしょう」
「立花春音は今日こちらに来てますでしょうか」
「春音ちゃんの知り合いなんですか?」
「そうです」
「もしかして……」
じっと見つめられる。
< 44 / 55 >

この作品をシェア

pagetop