大嫌いの先にあるもの【番外編】
「こんな所で寝てたら風邪ひくよ」
可愛らしい声が聞える。

「うーん」
「ねえ、起きてよ、パパ」

パパ?

びっくりして目を開けた。
目の前にいたのは水色のワンピース姿の小さな女の子だ。

「今日はピアノ教えてくれる約束でしょ」

ピアノ?

「パパ、ねえ、パパ」
ソファに横になったままでいると、小さな手が僕の腕を掴んで揺らす。

「パパみたいにぶるーでピアノ弾くって言ったでしょ」
「ぶるーって?」
「ぶるーはぶるー。パパのお店」
「パパって僕?」
「パパのいじわる」
急に女の子がえーんと声を上げて泣き出した。
泣き顔が春音に似ている。

いや、よく見ると春音にそっくりだ。
どういう事だ?春音が子どもになってしまったのか?

それよりも何とかしなければ。
ソファから起き上がって泣きじゃくる女の子の頭を撫でる。

「ごめん。ごめん悪かった」
「パパ、抱っこ」
「抱っこか。うん、わかった」
ひょいっと女の子を持ち上げて膝の上に乗せた。
軽くて柔らかいし、なんか抱き心地がいい。

「これでいいかい?」
「うん」
女の子が鼻をすすりながら頷いた。
涙いっぱいの丸い大きな目が愛おしい。

「泣かせてごめんね」
涙を指で拭ってやると、女の子がにこっと笑った。

うっ、可愛い。
なんだこの可愛い生き物は。

パパ、いいかも。
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