大嫌いの先にあるもの【番外編】
「中学生って、また私をバカにしてるの?これでももう、お酒を飲める年なんだから」

目の前のジントニックを飲んだ。
甘い……。これ、ジントニックじゃない。ジンジャーエールだ。

一体、どういう事?この状況は何?

「春音ちゃん、お酒飲んでるの?ダメだよ。成長期にそんな事したら身長伸びなくなるよ」

どうして黒須は私の事、“春音ちゃん”て呼ぶの?

出会ったばかりの時みたいに。

「圭介、春音、お待たせ」

後ろから弾んだソプラノの声がした。

知ってる声に心臓が縮む。

この声はまさか――美香ちゃん?

「美香、お疲れ様」

黒須が穏やかな笑みを浮かべ、私の後ろに立つ人物に視線を向けた。
本当に美香ちゃん?

ゆっくりと首を向けると、胸元が大きく開いたターコイズブルーのドレス姿の美香ちゃんが立っていた。

そのドレスに見覚えがある。
ステージに立つ時に美香ちゃんが着ていたお気に入りのやつだ。

本当に美香ちゃん?

「春音、どうだった?最後の曲は春音にプレゼントしたのよ」

美香ちゃんがキラキラの笑顔を向けてくる。

長い睫も、意志の強そうなキリっとした二重の目も、色白の卵型の輪郭も、口元にある小さな黒子も、綺麗な白い長い首も全部、美香ちゃんだ。

会いたかった。会いたかったよ。

「美香ちゃん!」

スツールから立ち上がって飛び込むように美香ちゃんに抱き着いた。
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